イーサバースの短い歴史

 トークン、プロトコル、トランザクションの主要なカテゴリーにおけるガス(手数料)消費量を定量化することにより、イーサリアムのにおいて最も傑出したユースケースを深く掘り下げる。我々の分析では、イーサリアムのエコシステムの複雑さと進化し続ける性質に注目する。

イーサバースの短い歴史

 ガス市場の観点からイーサリアムのエコシステムを調査した前回の記事から2年、激動で急速に進化するこの業界にとっては長い時間が経った。その後、全く新しいユースケースが出現し、既存のユースケースについても新しいプロトコルが誕生して市場シェアを獲得している。この補足記事は、発表まで長い月日を経たものであり、Glassnode Studioの新しいイーサリアム活動における分析された指標一式のリリースと同時に公表する。私たちは、コミュニティによってどのような洞察が発見されるのか待ち遠しい– まずは、我々の洞察を共有しよう。


新しい指標のリリース

 この新しいイーサリアムの内訳指標の一式は、現在Glassnode Studioで利用可能である:

 - イーサバースを探索するプリセットダッシュボード
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トランザクションタイプの内訳(相対値)
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トランザクションタイプの内訳(絶対値)
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トランザクションタイプ別のガス使用量(絶対値)
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トランザクションタイプ別のガス使用量(相対値)


動機と方法論

 イーサリアムはパーミッションレス・プラットフォームであり、そのため、強制的な固有の目的を持たない。パーミッションレス・プラットフォームとは、いかなる意味においても、その利用方法によって経験的に定義される。したがって、イーサリアムを理解するには、純粋に記述的な作業、つまりそれが何のために使用されているかを観察することから始める。

 我々は、使用状況に対する最良の測定ツールは活動類別(activity type)ごとに使用されたガスの相対量であると主張している。トランザクション数より直感的ではないが、このアプローチはイーサリアムの設計そのものに根ざしている:

 ・イーサリアムプラットフォームの処理能力は、ブロックごとに利用可能なガスの単位で制限されている。ユースケースが希少なブロックスペースを巡って競争する際、勝者は十分に高い手数料を提供できるかどうかで決まり、敗者はプラットフォームから事実上排除されることになる。
 ・ガス市場は非常に競争が激しいため、ガス消費量はユーザーの需要とユーザーが特定のユースケースやプロトコルに割り当てる経済的価値を示している。ガスシェアの減少は、法定通貨またはイーサベースで消費の増加を示している可能性があることに注意して欲しい。この場合、Glassnode Studioで手数料の絶対値を参照する必要があるかもしれない。私たちの目標は、イーサリアムエコシステム内のユースケースにおける相対的な普及を比較することであるため、この記事ではガスシェアのみに注目している。
 ・ガスシェアはユーザーによる真の経済的支出を示しており、操作が困難であるため、我々はトランザクション数よりガスシェアを選択した。トランザクション数は、特にネットワークの混雑が少ない時期に人為的に膨らませることが容易である。

 イーサリアムプラットフォームには、秘密鍵によって管理される外部所有アカウント(EOA)と、コントラクトによって管理されるコントラクトアカウントの2種類がある。我々はユーザー主導の需要を表すものとして、トランザクション内のすべてのガスをEOAによる最初のコントラクトコールに帰属させると定義している。内部トランザクションを考慮すると、関連性はあるものの、異なる図が描かれることになる。

概要

図1:カテゴリー別の相対的なガス使用量のシェア ライブチャート

 まず、イーサリアムの歴史について包括的にまとめる。図1は、イーサリアムのブロックチェーン上で記録されたすべてのトランザクションにおける相対的なガスの使用量を、最も主要なユースケースに分類して示している。7つのカテゴリは記述するに値する重要性があり、そのうちの2つ(ブリッジ、MEVボット)は昨年に台頭し始めたばかりである。

 ・バニラ:EOA間における純粋なEth送金であり、コントラクトをコールしない。
 ・ステーブルコイン:発行者またはアルゴリズムによって、その価値がオフチェーン資産にペッグされているファンジブルトークンである。その大半はUSDにペッグされている。このカテゴリには150以上のステーブルコインが含まれ、USDT、USDC、UST、BUSD、DAIが最も著名なものである。
 ・ERC20:この記事におけるERC20は、ステーブルコインではないすべてのERC20コントラクトをこのカテゴリーの範疇として含めている。
 ・DeFi:スマートコントラクトとして実装されたオンチェーン金融商品およびプロトコルで、一般的には伝統金融業界のような仲介者を介さない。現在最も人気があるのは、トークンを取引するためのピアツーピアのプラットフォームである分散型取引所(DEX)である。Uniswap、Etherdelta、1inch、Sushiswap、Aave、0xなど、90以上のDeFiプロトコルがこのカテゴリに含まれる。
 ・ブリッジ(Bridges):異なるブロックチェーン間でトークンの転送を可能にするコントラクトである。Ronin、Polygon、Optimism、Arbitrumなど、このカテゴリには50以上のブリッジが含まれている。
 ・NFTs:チェーン上で所有・転送可能な唯一無二の身分認証可能なデータ片である。このカテゴリには、トークンコントラクト標準規格(ERC721、ERC1155)と、それらを取引するためのNFTマーケットプレイス(OpenSea、LooksRare、Rarible、SuperRare)の両方が含まれる。
 ・MEVボット:Miner Extractable Value(マイナーのマイニング報酬以外の収益)(MEV)ボットは、ブロック内のトランザクションを並べ替えたり、挿入や検閲を行うことで利益を得るためにトランザクションを実行する。
 ・その他:このカテゴリーには、上記のカテゴリーに含まれないすべての取引が含まれる。例えば、取引所のマルチシグネチャーコントラクトや中央集権型の融資プラットフォーム、ギャンブルサイトなどである。

 定性的に見ると、今の上記のカテゴリーの利用分布は2年前とは大きく異なり、上記の各カテゴリーのシェアは劇的に変化している。これは、プラットフォームの進化する性質と、それを評価するために必要なダイナミックな研究フレームワークを明らかにしていると考えている。つまり、2022年のイーサリアムを2019年のイーサリアムと同じように評価するのは明らかに間違っている。データが示すように、安定化の兆候も見られず、2024年のイーサリアムは現在とは全く異なる使われ方をしていることが十分に予想される。以下、7つのカテゴリーについてより詳しく見ていく。

バニラ

図2:バニラ取引で使用されるガスのシェア

 概念的には、バニラ送金はイーサが通貨として使用されていることを表している。ガス消費の観点から、このユースケースは初期において最も支配的だったもの(2015年はガスのシェアが80%)から、ここ2年間は〜10%の範囲まで減少している。つまり経験的に、イーサリアムは主に、あるいは顕著に、ユーザー間でイーサリアムを送金するためだけに使われているのではない。

図3:バニラ取引におけるガス使用量


 しかしながら、イーサリアムブロックチェーンが記録するイーサトランザクションが2016年よりも少なくなったと考えるのは間違いだろう。その理由は、過去の歴史の中でガスの上限が何度も引き上げられられているからである。2015年にイーサリアムが初めてローンチしたとき、ガスの上限はかつて1ブロックあたり5,000ユニットだった。その後、1,500万個のターゲットブロック制限に向かって徐々に増加し、ロンドン・アップグレード後のネットワーク混雑期にはその2倍になることもあった。つまり、イーサリアムの送金において、相対的な重要性は時間とともに低下したが、絶対的な処理量は何桁も上昇した。

ステーブルコイン

図4:ステーブルコイン取引で使用されるガスのシェア

 ステーブルコインはイーサリアムで生まれたわけではないが、最初に発展したのはイーサリアムである。より低い手数料とより高速な認証を求め、ビットコインから移行したUSDTによって開拓されたステーブルコインは、ガス消費においてすぐに有力な存在となった。この3年間、イーサリアムはイーサよりもドルの決済プラットフォームとして使われることがほとんどで、2019年後半からは毎月、ステーブルコインの月間送金量がイーサを上回っている
 USDT以外にも、中央集権型(USDTとUSDC)とアルゴリズム型(インセンティブ構造によって維持されるペッグ、例えばDAIとUST)、どちらのプロジェクトも、発展するステーブルコインの領域において競争がますます激化している。しかし、この競争のダイナミクスは、上記のプロットから推し量ることはできない。
 イーサリアムでのフィアット建ての手数料が問題になると、ステーブルコインは他のブロックチェーンに拡大した。現在、トロン(Tron)プラットフォームでのUSDTの発行枚数は、イーサリアムでの発行枚数を上回っている。USDCは8種類のブロックチェーンに対応し、USTは10種類のブロックチェーンに対応した。イーサリアムが分散型汎用コンピュータとして使用されている限り、より安価、またはより高速、あるいはその両方を備えた競合プラットフォームにシェアを奪われ続けるかもしれない。
 このように、マルチチェーン時代におけるプラットフォームとプロトコルの多対多の関係に注目してほしい。プラットフォームであるイーサリアムだけでなく、多くのプロトコルが利用されており、これらのプロトコルの多くは複数のプラットフォーム上で動作している。また、他のチェーンも調査しなければ、ステーブルコインのエコシステムを完全に理解することはできない。

ERC-20

図5:ファンジブルトークンによるガスの使用量のシェア

 ERC-20コントラクトとして実装されることが多いファンジブルトークンは、2018年に記録したガス市場における40%のシェアが歴史的にトップであった。ICOブームの時代は過ぎ去ったようで、ここ数年の当該ユースケースはガス市場において少なめである5~10%のシェアレンジ内にある。あなたはプロット上の他のERC-20トークンのサブカテゴリが優勢であることに気づくだろう。歴史上、多くのプロジェクトはつかの間の名声を得たが、どの時点においても、このカテゴリーは、その月の流行りのトークンによって占められている。

図6:最も人気のあるトークンが使用するガスのシェア


 歴史の中で最も人気のあるトークンを見ても、1年以上にわたって人気があるものはない。
 ファンジブルトークンに注目すべきサブカテゴリーはラップアセット(Wrapped Assets)で、特にWETHとWBTCは、対応するチェーンのネイティブトークンのトークンインターフェースを持ち、それらに対するDeFiの利用を可能にする。つまりイーサ建ての取引高というのは、ネイティブETHとラップトークンの2つの形態がイーサリアム上に存在する。

DeFi

図7:分散型金融で使用されるガスのシェア

 分散型金融(DeFi)には、貸出、借入、現物・デリバティブ取引、利子の獲得、保険など多くのアプリケーションが想定されていた。今のところ、私たちが目にした著名なサービスのほとんどは1つ、分散型資産取引である。ここ2年間で、流動性供給とイールドファーミングも非常に人気のあるアプリケーションとして台頭し、将来的にはDeFiにおいてさらなる細分化がされるかもしれない。

 分散型取引所(DEX)は、2017年のEtherDeltaの出現で初めて人気になり、それ以来、ガスの主要な消費者となっている。流動性はトレーダーによって提供され、収益もトレーダーに還元にされるため、自然と集中的に流動性を支配している。ほとんどの時点で、1つか2つのプラットフォームのみがこのカテゴリーを支配しており、現在はUniswapがリードしている(ピーク時のDeFiのガス消費は88%、現在は〜60%となっている)。また、この分野ではMetamask(オレンジ色、一番上の帯)が存在するが、これは直接的なDEXではなく、他の流動性プロバイダーから特定の通貨ペアの「ベストスワップ価格」を利用し、クライアントからそれらを集約するアグリゲーターである。今後我々が予測することとして、業界が成熟するにつれ、一部の機能は明示的ではなく暗黙的になり、ユーザーはオンチェーンやクロスチェーンでの細かな操作をすべて集約した最も利便性の高いプラットフォームとやり取りするようになると思われる。

ブリッジ

図8:ブリッジのガス消費量のシェア

 クロスチェーンといえば、ブリッジは最も新しいガスの消費者として注目されている。イーサリアムでの取引がフィアットベースで非常に高額になり、競合のブロックチェーンが安定性と機能性の面で成熟するにつれ、クロスチェーンの資金フローが出ている。Axie Infinityのピーク時にRoninブリッジが短期間に急増した(数日間のピークの時はガス消費量が〜8%に達した)ほか、ブリッジのガス消費量は昨年1年間で2倍になり(1%から2%)、イーサリアムブロックチェーンとイーサリアムエコシステム内のL2ソリューション(Polygon、Arbitrum、Optimism)、および競合ブロックチェーンのエコシステム(Avalanche、Polkadot)が接続された。資金の流れに関する意味のある洞察には、マルチチェーンの考え方とツールが必要になる時に近づいているかもしれない。
 ビットコインでさえもその影響を受けないわけではない。現在、総供給量の1%以上がWBTCという中央集権型のブリッジという形でイーサリアムブロックチェーンに存在している

NFTs

図9:ノンファンジブルトークンの活動で使用されるガスのシェア

 現在ではCryptokittiesを覚えている人は少ないかもしれないが、2017年当時、最初に人気となったNFTプロジェクトは一時的にネットワークスループットの約3分の1を占めるほど貢献し、ネットワークの手数料を大幅に上昇させた。同年、OpenSeaのベータ版がリリースされた。しかしながら、NFTが再びガス市場で目立つようになるのは、2021年後半になってからのことだ。それ以来、それは侮れない存在となった。現在、イーサリアムで消費されるガスの約3分の1がNFTの活動で使われている。1トランザクションあたりのガス消費量の高さも、逆境的な価格状況も、今のところこれには影響しないようである。このカテゴリでは、OpenSeaが市場をリードしており、NFT関連のガスの60%以上を消費し、他のいくつかのプラットフォームは遅れをとっている。
 ERC-1155トークン基準の導入により効率性が向上し、特にOpenSea Wyvern取引所ではその効果が顕著に表れている。

MEVボット

図10:MEVボットのガス使用量のシェア

 一般的な認識では、Miner Extractable Value (MEV) はイーサリアムにおいて固有のものであり、分散型取引所間の価格差のアービトラージによって DeFi エコシステムの効率を高めるという重要な役割を果たすというもので、アービトラージは MEVの 95% 以上を占めている
 その名が示すとおり、MEVの主な受益者は一般的にマイナーではなく、MEV取引を作成するための自動化ツールを利用した探索者(MEV取引のチャンスを探す)と抽出者(MEVのトランザクションを行う)のコミュニティである。しかしマイナーは、市場価格を大幅に上回るガス代が支払われる傾向にあることからアービトラージに緊急性が伴い、高い手数料を受けている。
 MEV抽出者は自分たちのことを宣伝せず、MEV取引の分類に関するヒューリスティックも不完全であることを考えると、実際の数字が過小評価されているかもしれない。Flashbotsチームによると、少なくともガスの4%がMEV取引によって消費されている。
 競合のブロックチェーンがMEVの影響を減らすことができれば、ユーザーがイーサリアムから移行する動機付けとなる可能性がある。

その他

図11:その他の取引におけるガス使用量のシェア

 イーサリアムにおけるパーミッションレス・プラットフォームとしての設計は、上記に挙げたもの以外にも、オンチェーンゲームやマルチシグネチャープロトコルからポンジスキームに至るまで、非常に多くのユースケースを生み出す。ピーク時には、MMM(ピーク時のガス使用量の10%を占めた)やFairWin(一時的に40%に達した)などのポンジスキームが、イーサリアムにおける最も人気のあるユースケースの1つだった。しかしながら、こうした時代は過ぎ去ったようだ。取引所コントラクトもここに含まれ、特に資金運用に活用されるマルチシグネチャーコントラクトは注目されている。未発見のMEV抽出、不明瞭なDeFiプロトコル、非標準規格のトークンもこのカテゴリーに含まれるかもしれない。

 イーサリアム上の活動をすべて分類することは、いつまでも終わらない。我々は、上記のすべてのカテゴリーのカバレッジを継続的に改善し、新たなユースケースが十分な影響レベルに達したときに新しいカテゴリーを追加する予定である。

まとめ

 イーサリアムの目的がその利用方法によって経験的に定義されている限り、イーサリアムは多くのことを成し遂げた。初期のネイティブアセット決済ネットワークから、2018年のファンジブルトークン、そして最近のノンファンジブルトークンまで、多くのユースケースがプラットフォームの手数料消費者として注目されている。本来のイーサリアムのビジョンと大いに一致しており、汎用分散型コンピュータであるイーサリアムが実行する計算は未だ理解しきれないことを認めざるを得ない。

 その結果生まれるダイナミックなエコシステムを理解することは、決して容易なことではない。価値は複数の異なるチャネルを通じ、無数の異なる形でネットワーク内を流れている。さらに難しいことに、イーサリアムは他の多数のL1およびL2とますます繋がってきている。増え続ける資産、プロジェクト、プロトコル、エンティティが複数のチェーンに同時に存在し、プラットフォーム間を自由に行き来している。

 今日のイーサリアムに対して、ビットコインと同じ考え方で、あるいは2019年のイーサリアムと同じ考え方でアプローチしても上手くいかないだろう。単一アセット、単一チェーンの指標に依存すると、不完全で表面的な理解にしかならない。ネットワークの現状を理解するためには、新たな動きに対して敏感になり、幅広い専門分野とニュアンスを理解する必要がある。

 いつの時も、Glassnodeはそれを提供するために存在する。

 新しくリリースされたイーサリアムの分析指標は、現在Glassnode Studioで利用可能である:

 - プリセットダッシュボード イーサバースを探索する
 - トランザクションタイプの内訳(相対値)
 - トランザクションタイプの内訳(絶対値)
 - トランザクションタイプ別ガス使用量(絶対値)
 - トランザクションタイプ別のガス使用量(相対値)

キーポイント

 イーサリアムは、主に価値の移転に使用されるプラットフォームであるが、何を以て価値とし、何を以て移転とするかは、常に変化している。ビットコインとは対照的に、イーサリアムは以下のようなツールや考え方を必要とする:

 ・ユースケースに敏感で、新しい展開に対応できること。
 ・マルチアセットであること。つまりファンジブルトークンとノンファンジブルトークンを含む幅広い価値の定義が可能であること。
 ・マルチプロトコルおよびマルチチェーンであること。分散型金融プロトコルやクロスチェーンブリッジを含む広義の転送である。