強気派と弱気派の衝突

 弱気派はビットコインHODlerの利益を模索、供給ダイナミクスは新たな均衡へ接近、そしてデリバティブ市場の過熱感は続行している。

強気派と弱気派の衝突

 ビットコイン市場は、2週目の恐怖に満ちたドローダウンから穏やかな状態に戻った。投資家とトレーダーは、市場が一層タカ的になる米連邦準備理事会とともに新たなインフレ形態へ突入する中、マクロ的な可能性を消化しているように見える。この変化は、ビットコイン市場を短期的に動揺させ、中期的な見通しを支配するリスクがある。

 価格は41,718ドルから今週をスタートし、一時39,821ドルまで新たに調整し下落した後、心理的節目である40,000ドルのレベルまで回復した。その後の値動きはさらに上振れ、最高値44,252ドルに達した。

 今週のニュースレターでは、今日のビットコイン市場を覆う不透明感と、その中で巻き返しを図る参加者の心理を、以下の項目で取り上げる:

 ・HODLerの利益はヒストリカルキーレベルにあり、全体的な投資家の反応も観察可能である。
 ・短期、長期保有者の供給ダイナミクスと売却行動をズームアウトし、中長期的な投資家心理を示唆する。
 ・デリバティブの動きとそれが示唆するビットコインの価格動向に対する短期的な見通しについて。

ライブチャート

今週のオンチェーンダッシュボード

 今週のオンチェーンニュースレターでは、すべてのチャートが表示されるライブダッシュボードをご用意しています。このダッシュボードと対象となるすべての指標は、毎週火曜日に公開されるビデオレポートでさらに詳しく解説しています。Youtubeチャンネルビデオポータルでは、より多くのビデオコンテンツや指標のチュートリアルをご覧いただけます。

HODLersの利益は崖っぷち

 ビットコイン価格は現在、2021年11月に記録したATHから約35%下落したところで取引されている。ドローダウンの悪化に伴い、ますます大量のBTC供給が含み損に陥っている。現在、約570万BTCが含み損の状態になる(流通供給量の~30%)。

 弱気派が含み益保有者のコホートに圧力をかける中、ビットコインの強気派は、含み益供給比率(Percent of Supply in Profit)指標におけるヒストリカルキーレベルを保っている。この規模の“上値が重い供給”は、過去数年で2回発生した。

 ・2020年5月~2020年7月、コロナ関連のパニックにより急落した後の静かな回復期
 ・2021年5月~2021年7月、歴史的なデレバレッジイベントの後の不規則な動きと購買の時期

 この水準からの反応は、ビットコイン市場の中期的な方向性の手掛かりになりそうだ。さらなる弱気相場は、含み損を抱えている売り手を最終的に投げ売りさせる動機となる一方、強気な動きは、待望されている心理的な安堵感を与え、より多くのコインを含み益へ戻す可能性がある。

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 誰がコインを手放したのか、いつ、どこで売却されたのかを観察することで、市場全体の心理を把握することができる。含み益取引売買高の割合(Percent of Transfer Volume in Profit)指標は、マクロ的な恐怖と欲望の指標として、最後に安い価格で取引されたオンチェーン上のコインの割合を示している。

 ・含み益の取引高の割合 > 65% は、大量のコインが利確のために売却されていることを示す。これは歴史的に急上昇時に発生した際に、保有者が市場の強さを利用するためである。
 ・含み益の取引高の割合 < 40% は、オンチェーン取引高が高い価格で取得されたコインに占められていることを示す。これは、歴史的に市場の下降トレンド、特に投げ売りイベントで発生する。

 今週の売り相場の含み益取引売買高は40%未満で、過去の投げ売りイベント時と一致するレベルである。このレベルでの過去の事例は、強気相場への反転と一般的なリスクオン動向の期間を先行した時である。

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 また、含み益を持つコインの売却率の低さは、BTCが移動した際の収益性(ドルベース)を示す実現収益チャートを見ても明らかだ。含み益がある保有者はコインを売却しようとしない傾向が顕著であることを示しており、実現収益の値は一貫して10億ドル/日以下となっている。乱高下かつ納得感のない値動きに直面するなか、保有者たちは、彼ら自身の供給をより高い価格で売却するために辛抱強く待っていることを示唆している。

 実現収益が上昇し、特に10億ドルのレベルを超え、ポジティブな価格パフォーマンスを伴う場合、コインの需要吸収のシグナルとなり、今後数週間は注目すべき指標となる。

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 一方、含み損を抱えている保有者は10月から11月にかけて市場の高値近辺で獲得したコインを売却するため、含み損は依然として高水準で増加傾向にある。

 1日平均の実現損失は〜7億5,000万ドルで、2021年5月から7月間の投げ売り時のレベルに匹敵している。多額の損失が発生し続けていることは市場の不安を示すものであるものの、売却済みコインを吸収する需要流入の見込みを反映しているということでもある。

 多額の実現損失が続くと、強気派は十分な需要の裏付けを証明する責任を負うことになる。実現損がマクロ的に減少することは、売り手側の疲弊を早期に示すことになり、強気派にとってより心強いシグナルとなるであろう。

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 価格変動、実現収益、実現損失の間の膠着状態は、28日間の市場実現勾配(MRG)で見ることができる。MRGは、時価総額(投機的価値)と実現総額(実際の資金流入)の勢いを比較する。

 ・正の値は完全な強気トレンド示し、スポット市場の上昇モメンタムが高まっていることを表している。
 ・負の値は弱気トレンドが発生していることを示し、モメンタムは弱気派に有利である。
 ・大きな値のシグナルは、ビットコインが買われすぎ(ポジティブ)または売られすぎ(ネガティブ)である可能性を示し、市場価値がファンダメンタルでの資本の流入または流出からそれぞれ乖離していることを意味する。
 
 MRGのトレンドと値は、1か月にわたる強気のダイバージェンスを伴いながら、現在の市場価格が資本流入と均衡するポイントに近づいていることを示している。ゼロを大きく上回れば強気相場への反転を、下回ればモメンタムがダウンサイドへ加速することを示唆する。

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コホートと心理

 また、短期保有者(STH)と長期保有者(LTH)の心理や売却行動を、それぞれの実現総額や供給動態の変化を見ることで分析することができる。

 以下の指標は、LTHとSTHの実現総額の日次変化の差として算出される。解釈は以下の通り:

 ・ネガティブ値(赤)は、STHの実現総額がLTHの実現総額よりも日次ベースで増加していることを示すシグナルである。これは、長期保有者が新規保有者へ売却を行う上昇時に発生する。
 ・ポジティブ値(緑)は、LTHの実現総額がSTHの実現総額よりも日次ベースで増加していることを示す。これは、STHの活動が減少し、未売却コインがLTHコホートに熟される弱気の購買市場において発生するものである。
 
 現在の数値はゼロ近辺にあり、全体的に上昇傾向にある。これは、LTHによる売却が和らぎ、市場が新たな均衡に達して購買期へ反転する可能性があることを示している。ただし、同様の市場が均衡とマクロ的な底打ちの可能性を確立するプロセスは、歴史的に見て解決までに数ヶ月を要していることを留意してほしい。

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 LTHからSTHへのコインの売却が緩やかであることは、保有総量指標(Total Supply Held metric)に反映されており、STHコホートのコインの総保有量は数ヶ月間にわたって増加している。

 このコホートによって保有されている供給量は〜300万BTCで、過去と比較しても低く、HODLerが支配する市場への移行と見ることができるレベルである。これは2021年5月のデレバレッジイベント以降続いている。低いSTHの供給レベルは弱気トレンドの典型であり、古いコインは休眠状態のままで、若いコインは強い信念を持つ買い手によってゆっくりと購買されていく。

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 次に、コイン年齢とコスト・ベースによる実現総額の内訳を反映した、実現総額のHODL波動(Realized Cap HODL Waves)について説明する。以下のチャートは、短期保有者のコホートで作用する力をさらに強調するために、3ヶ月未満のコインをフィルターにかけたものである。

 一般的に、この指標の値が低いほど、古いコインが休眠する弱気トレンドを示しており、若いコインが徐々に購買され、市場から消えていく。

 現在、実現総額の約40%は、3ヶ月未満のコインとして保有されており、市場の高値近辺や現在の調整期間に参入した買い手に所有されている。1-3ヶ月バンドは拡大しており、建設的な見方をすれば、これらのコインは3ヶ月以上のバンドへと成熟し続け、若いコインの減少をもたらすと考えられる。より弱気な見方としては、古いコインが売却を始めると、これらのバンドは膨らみ、吸収されるべき流動的な供給がさらに流入することを意味する。

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地平線上のデリバティブの花火

 ビットコイン保有者の収益性が低下しながらも中長期的には供給力が高まる中、先物市場の短期的なボラティリティは依然として危険なレベルであり、無期限先物建玉は〜25万BTCと歴史的に高い水準である。

 2021年4月以降、ショートまたはロングのスクイーズリスクのプライスアクションは大きな転換とセットになっており、市場全体のデレバレッジイベントで解消される。

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 高水準の建玉と並んで、今週は資金調達金利がマイナス圏に入り、ショートのレバレッジに対する渇望が強まっていることがうかがえる。無期限スワップ市場がスポット価格を下回ったため、現在の価格に近いところでショートポジションが供給過多になる可能性がさらに高まった。

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 大量の未決済建玉とマイナス金利に加え、取引量も減少を続け、現在は1日あたり約300億ドルとなっている。これは2020年12月の水準と一致しており、1日当たり700億ドルを大きく上回っていた2021年の強気相場の高水準からの著しい減少を反映している。デレバレッジイベントが発生した場合、取引量の減少はよりその影響を際立たせる可能性がある。

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 建玉は大きな動きを求めてチャージし続け、資金調達金利が低下し、先物の出来高が減少する中、クリプトマージン建玉は現金マージン建玉に対して減少し続けている。

 クリプトマージン商品には建玉のわずか40%ほどで、2021年5月以降下落傾向にあることから、現金マージン先物のデータはますます高いシグナルとなり、より多くの市場参加者の関心を集めるに値する。この傾向は、主にBinance、Bybit、Huobi、OKExの取引所におけるクリプトマージンの相対的な減少によって引き起こされていることを留意してほしい。

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 要約すると、より広範な弱気市場構造の中で、何らかの形で価格とモメンタムの均衡に達しつつあるということが証明されている。ビットコインの弱気派が優勢であることは確かであるが、多くのオンチェーン指標とインジケーター上でやや強気なダイバージェンスが現れている。先物建玉の増加と、重いショートマーケットと見られるバイアスが相まって、アップサイドへのデレバレッジリスクは依然として残っている。

製品アップデート

 すべての製品の更新、改善、指標とデータの手動更新は、参考のために変更履歴に記録されています。

・mempool メトリクスのスタック順を逆にした。
Uncharted Newsletter Edition #7を今後プロフェッショナル会員向けにリリースするニュースレターとしてリニューアルした。