弱気相場の暗黒期

 今週のビットコインとデジタル資産は、またしても混沌とした下落相場となり、ビットコインはオープン時の31,693ドルから下落し、25,150ドルという数年来の新安値まで取引された。最新の米国CPIが8.6%と市場予想を上回り、月曜日の早い時間帯に再び2y-10y米国債のイールドカーブが反転するという、マクロ的な逆風が依然として大きな要因となっている。これを受けてDXYは大幅に上昇し、ビットコインは11週間ぶりとなる10つの赤いロウソク足を付けて取引を終了している。

 ビットコインのネットワーク利用率は低迷を続け、RVTなどのマクロ指標は未知の弱気領域に突入している。エビ(< 1BTC)、クジラ(> 10k BTC)を問わず蓄積は続いているが、価格のサポートラインが確立されるには程遠い。多くのマクロ評価指標が売られすぎの状態を示し続けているにもかかわらず、ビットコインは依然として伝統的市場と相関性があり、価格は反応し打撃を受けている。

 今回は、現在の弱気相場が、過去の弱気相場における最も深く暗い段階と一致する局面を迎えていることを探る。市場は平均してコスト・ベーシスをほとんど上回っておらず、長期保有者ですら保有ベースから除去されつつある。


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 今週のオンチェーンニュースレターでは、すべてのチャートが表示されるライブダッシュボードをご用意しています。このダッシュボードと対象となるすべての指標は、毎週火曜日に公開されるビデオレポートでさらに詳しく解説しています。Youtubeチャンネルビデオポータルでは、より多くのビデオコンテンツや指標のチュートリアルをご覧いただけます。


コストベーシスに直面

 市場が2万ドル台半ばで取引されるようになり、最も重要で基本的なオンチェーン指標の1つである「実現価格」に近づいている。この指標は、供給されているすべてのコインにおける平均価格を、最後にオンチェーンで使われた時点で評価したものである。

 実現価格(23,430ドル)は、弱気市場における最も深く最終的な段階以外を除いて、スポット価格が訪れることはほとんどない。市場全体が未実現損失を保有していた2020年3月および2018年の弱気市場の終わりが最後の例であった。

ライブチャート

 MVRV Z-Scoreは、ビットコインのスポット価値を実現価格と比較してオシレーターを取得する。このツールは「本質的価値」から乖離した統計的に意味のある偏差を識別するのに役立ち、過大評価と過小評価の状態を査定するために使用される。

 通常、平均値(黒線)に等しい値は後期の深い弱気相場と一致する。現在の市場は平均値からわずか+0.26の標準偏差まで下落しており、歴史的にはバリューゾーンで、特にZスコアの上方への移行を加味した場合にはそのように見なされる。

 しかし、過去の弱気サイクルでは、弱気相場が終了する前にMVRV-Zの負の値がしばしば見られ、その状態がしばらくの間(2018年は数ヶ月間続き、2015年は年中続いた)持続することが示されている。

ライブワークべンチ

ビットコインのHODLersが軟化

 11月以降の構造的な下落トレンドの中で、様々な行動段階とビットコインの売却行為が見られた。これらの行為の変化から、投資家のセンチメントがどのように変移したかを測定できる。

 オンチェーンのビットコイン残高の増加または縮小の規模と期間を評価する蓄積トレンドスコアは、これらの変化を観察するのに便利なツールである。これは、すべてのコホートにおいて加重された集約的な蓄積/売却を示す。

 ・2020年12月~2021年1月 - 当時のATHである64kドルに向けて、投資家が参入し強気な急上昇が発生した強気相場における購入期。
 ・2021年1月~2021年10月 - GBTCプレミアムがディスカウントに転じた後、スポット需要が減少した結果、市場が軟化し全般的に売却された(こちらのレポートで取り上げている)。
 ・2021年10月~2022年1月- 後に再分配されたATH後の買い需要(2022年第9週で取り上げた)。
 ・2022年1月~2022年5月 - 断続的に蓄積と売却が行われ、LUNA-USTをきっかけとする売却によって最高潮に達した(2022年第20週で取り上げた)。

 現在の市場では、蓄積トレンドスコアが0.8が超えている月が一つあり、市場全体で非常に建設的なバランス変化が起きていることを示している。これは、LUNAによる売り相場前の断続的な蓄積からは顕著に変化しており、$30k以下の価格における投資家の価値観が改善したことを示唆していると思われる。

ライブワークベンチ

 また、HODLingや売却行為に対する市場の選好を理解するために、活動度(Liveliness)指標に注目できる。活動度は、全てのコインデーの破壊とコインデーの生成の間におけるバランスを定義する。したがって、破壊と蓄積のレジームにおける流れを把握するために使用できる。

 活動度は8月21日以降、構造的な下降トレンドにある。ビットコインは、HODLingが支配的であるため、総じてコインデーの生成によるレジームに入っている。しかし、過去のニュースレターで探ったように、HODLerクラスしか残っていないため、彼らの需要サイドは現在の売り手側の動きを封じ込めるには依然として少なすぎる。

ライブチャート

 このことは、活動度における3ヶ月のポジション変化(下の紫色で表示)を評価しさらに確認できる。2021年7月のグレート・マイナー・マイグレーション(中国でマイニング規制されたことによるマイナーの拠点移動)以来、一般的な蓄積範囲が強調されている。しかし、このコインデーの生成レジームは勢いを失い、現在のトレンドに基づく均衡したポジションに向かって推移している。これは、市場の一般的な不確定性を反映しており、投資家のスポットポジションのリスク回避が進んだ結果である。

ライブワークベンチ

 HODLerネットポジションの変化は、これらの観測を供給の領域内で、HODLerベースが蓄積または売却しているコイン量の大きさを推定するために使うことができる。この指標は、現在のコインの休眠の度合いに基づいて、1ヶ月あたり約15k~20kBTCがビットコインHODLerの手に移っていることを示している。これは5月上旬から約64%減少しており、蓄積反応が弱まっていることを示唆している。

ライブチャート

 過去18ヶ月の間、投資家の確信と売却行為の局面が変化していることが確認された。特に、$30kのレベル(2021年5月~7月と現在)では、このサイクルにおいて他のどの価格水準よりも投資家の買い側のセンチメントが強いように見える点を確認できる。

二分化された市場

 ここまでで、投資家は3万ドル以下の領域に価値を見出していることがわかったが、この需要は現在の価格の下支えとしては不十分なものだった。次に、どのコホートが蓄積に参加しているかを分類し、これらの観察をさらに精緻化する。

 コホート別トレンド蓄積スコアでは、どのウォレットサイズのコホートがどの程度の蓄積/売却をしているか、より詳細に評価することができる。

 ・エビ (<1 BTC) と クジラ (>10k BTC、取引所とマイナーを除く) のコホートは、価格が$25k-$32kの範囲に低迷して以来、積極的に蓄積している。これは、価格が低迷している過去2ヶ月間を通して当てはまる。
 ・カニからサメ(1~100BTC)コホートは、現在の売り相場の中で、中立から売却の段階へ移行している。これは強気相場への確信が低下している可能性を示唆している。

 したがって、ここ数週間の蓄積トレンドスコアで見られた0.9以上という完璧に近いスコアは、超大口(10k BTC以上)と比較的小口(1BTC未満)のコホートによって牽引されている。クジラは$45kから$35kレベル(ゾーンA)で売り手となり、現在の$25kから$32kレンジ(ゾーンB)では主要な蓄積者の1つであることは興味深い点である。

GNエンジンルームでのライブ指標

 次に、1BTC未満のエビが保有する供給量における30日の変化率を評価する。30日間の変化率から、この小規模でリテールレベルと思われる投資家層が保有するコイン数に対するポジションの変化について洞察できる。

 現在の残高増加率は衰えつつあるが、その前には、過去18ヶ月のビットコインの最初の上昇後において最も積極的で一貫した蓄積期間があった。これらの小口保有者は、5月9日のLunaの暴落以来、+20,863ビットコインの純増加が見られ、コホート別蓄積トレンドスコアと一致することを証明している。

ライブワークベンチ

 絶対値ベースでは、エビは11月のATH以来、保有量に対し+96.3k BTCを追加した。これは流通量の0.451%であり、同期間の新規コイン発行量の48.6%に相当する。

 エビの保有量の正の勾配が急激になっていることが目に見えてわかる。これらの小口保有者は、正しいか否かに関わらず、下降トレンドに動じることなく、常にスポットBTCの蓄積を続けているように見える。

ライブチャート

 もう一つの評価対象は、10kBTC以上のクジラコホートである。彼らのアドレスの月間ポジション変化を見ると、このコホートも$25k-$32kの価格帯でずっと蓄積し続けているという前回の観測を裏付けることができる。このコホートは、毎月のポジション変化のピークが~140k BTC/月であり、2021年11月のATH以降は+306,358 BTCを追加し残高を増やしている。

ライブワークベンチ

 ウォレットコホート別のエンティティ調整後未使用実現価格分布は、この供給分布が最後に取引された価格帯と、どのウォレットコホートによるものかを調査している。

 30kドルと40kドルの価格帯では、様々なウォレットコホートと関連した大きな供給クラスターが見られ、この2つの価格帯では非常に大きな量の供給が取引されたことを示している。しかし$27kと$20kの間ではコインの取引量が少ないかつ、ボラティリティが高いところであり、サポートが少ない可能性がある。

GNエンジンルームでのライブチャート


ファンダメンタルズの悪化

 RVT比率では、日々のオンチェーン取引量に対する実現総額を比較することで、ネットワークの真の価値(実現総額)に対する日々の利用状況(オンチェーン取引量)を把握することができる。RVTに対する解釈のための一般的なフレームワークは以下の通りである:

 ・高値と上昇トレンドは、利用率の低さとネットワーク利用率の減速を示す。
 ・安値と下降トレンドは、利用率の高さとネットワーク利用率の上昇を示す。
 ・安定した横ばいの値は、現在の利用率トレンドが持続的であり、平衡状態にある可能性が高いことを示す。

 赤いバンドはRVT比率が80以上であることを示し、ネットワークの評価額が日次決済額の80倍になっていることを表している。これは、オンチェーンでの活動が乏しいことが示唆されている。歴史的に、弱気な価格行動の延長による結果であり、コストに敏感な参加者がネットワークから流出したことを表している。

 過去の弱気サイクルでは、利用率の低いネットワークが弱気市場の底値の対イミングと重なることがあった。ネットワークの利用率が高まり、RVTが下降に転じた場合、ファンダメンタルズの改善を示唆する可能性がある。しかし、RVT比率は現在2010年以来の高水準にあり、このまま上昇を続けると、ネットワークの稼働率に比してネットワークの評価がさらに「割高」になるという、やや未知の弱気領域に入ることになる。

ライブワークベンチ

 エンティティ調整後の休眠フローモデルは、ネットワークで費やされるコイン平均年齢という観点から、市場価値とネットワーク利用を比較するために使用することも可能である。休眠指標では、取引されたコインごとに破壊されたコインデーの平均値を測定する。そして休眠フローは、時価総額と休眠(米ドルベース)を比較することによって、市場価値に対する売却行為における乖離を把握できる。

 休眠フローは歴史的な低水準で推移しており、時間による加重オンチェーン取引量に対して市場価値が低いことが示唆される。休眠フローがこの水準にある過去の事例は、通常、弱気相場におけるキャピチュレーションイベントや最大の痛みが発生した時期と一致している。

 活動度とHODLerのパフォーマンスの下降に伴い、これは最も古いビットコイン保有者でさえネットワークから一掃された状態と一致している。

ライブチャート

最強の手さえも一掃される

 長期保有者(LTH)と短期保有者(STH)は元々対立の関係にあり、異なる価値観を持っている。

 ・短期保有者は、コストベースが現在のスポット価格に近いため、統計的に価格変動に敏感である。
 ・長期保有者は、一般に、比較的に価格に敏感でないHODLerと呼ばれる人々である。このコホートは、長期的な価値を追求するために、ボラティリティや価格の下落を乗り切る傾向がある(先週の記事で取り上げた)。

 使用済み価格(Spent Price)とは、毎日売却されたコインの平均的なコストベースを表すモデルである。これを分割してLTHとSTHの構成要素を分析し、その売却行為における乖離を確認することができる。LTHの構成員がSTHの構成員よりも高い平均コストベーシスでコインを売却するのは珍しいが、これは、最も強力な保有者でさえ資産から一掃され、深いキャピチュレーションゾーンに入ったときに起こる。

 下図はLTHとSTHの使用済み価格を比較しているが、LTHは現在STHよりも高いコストベースでコインを売却していることがわかる。過去の事例では、52日(2020年)から514日(2014-15年)にわたる深い弱気市場の終盤と重なり、さらに-40%から-65%という価格のドローダウンを伴っている。

ライブワークベンチ

 市場全体のコストベーシス(実現価格)をLTHのコストべーシスと比較すると、両者は現在収束しつつあることがわかる。LTHコホートは通常、最も低いオンチェーン・コスト・ベーシスを持っており、これはバリューゾーンである低い価格を購入するという彼らの取引の観念と直接結びついているため、彼らの購入総額は低くなっている。

 したがって、LTHのコストベーシスが総コストベーシスに近づいた場合、「スマートマネー」コホートの現在の保有銘柄が、より広い市場で結果を出していないことを示している。LTHの実現価格が全体の実現価格を上回った過去の事例も、弱気相場の最も深い局面に一致している。

ライブワークベンチ

サマリーと結論

 ビットコイン市場は、過去の最も深く暗い弱気サイクルと一致する局面に突入している。価格は、実現価格によって把握される総コストベーシスよりかろうじて上方を維持し、オンチェーン取引高のファンダメンタルズはさらに悪化している。歴史的に、この局面は市場が最終的に底を打つまで8カ月から24カ月かかると言われている。

 最も注目すべきは、長期保有者が現在は短期保有者よりも高いコストベースでコインを売却しており、そのコストベースは市場全体よりもかろうじて利益を上げている。過去において、これは残っているすべての売り手の最終的で苦痛な粛清フェーズの開始を示すもので、残念ながらさらに40%から64%の価格下落を伴うものであった。

 現在、ビットコインHODLerクラスがもたらす強気な信念とサポートに注目が集まっている。


製品アップデート

 製品の更新、改善、指標やデータの手動更新は、すべて変更履歴に記録されているので、ご参照ください。

 ・プロユーザー向けの新しいダッシュボードをリリース :GNエンジンルーム
 ・ダッシュボードの指標カードに5yズームオプションを追加した。
 ・ワークベンチのif機能の改善
 ・ワークベンチページの保存操作を簡素化し、on-click Priceオプションを追加した。
 ・Uncharted Newsletter Edition #17 をリリースした。