マイナーの利益はストレス下に

 市場は2021-22年におけるサイクルの安値付近で推移しており、大多数の投資家が含み損を抱えた状態になっている。さらに、マイナーはマイニングコストが上昇するなか収益が減少し、収益面におけるストレス下にあるように思われる。

マイナーの利益はストレス下に

 9週連続の下落相場から脱却し、最初の週足は緑のロウソク足を付けて終えた。とはいえ、1.57%という比較的冴えない上昇で留まっている。市場は、週高値31,900ドルから週安値29,375ドルの間で取引された。

 価格は2021-22年のサイクルレンジの下限で取引されており、過去17ヶ月間の買い手の大半は、現在含み損を抱えている状態である。このような市場の不透明感とストレスの強さはオンチェーンデータで観察でき、長期保有者が重荷を担い続けていることが分かる。

 また、マイニングの難易度が上がっているにもかかわらず、マイナーの収益が大幅に減少していることも確認されている。これは、マイナーのオペレーションが拡大し、資本が投下され、収益が減少していることにより、マイニングコストが増加していることを示唆している。利益率が総じて減少し、金融ストレスが高まる中、最も高い確率で市場はビットコインの弱気相場の2回目、歴史的に最後のキャピチュレーションの局面にあると言える。


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マクロにおける歴史的な安値

 ビットコイン市場のバリューゾーンをマッピングするすべてのモデルの中でも、シンプルで強力な2つの指標はアナリストにも広く利用されているものがある。メイヤー・マルチプル実現価格である。

 メイヤーマルチプル(Mayer Multiple)は、価格と200日移動平均の間の比率として定義されるオシレーターである。したがって、メイヤーマルチプルは、ビットコインの寿命を含むデータポイントを組み込んだ過大評価(買われすぎ)および過小評価(売られすぎ)の状態を測定するツールとして、長期的な平均価格からの偏差を表す。

 独自の分析によると、売られすぎや割安な状況は、メイヤーマルチプルが0.6-0.8の範囲にあるときと一致している。これらの比率は、次のチャートで200日移動平均に適用され、メイヤーマルチプルによる割安ゾーンを示している:0.6MM < 価格 < 0.8 MM。

 過去4回の弱気相場では、市場価格は2つの特徴的な局面でこの値域に入っている:

 ・フェーズA - 弱気市場の初期、ATH後の最初の売り相場により投資家はパニックを引き起こす。
 ・フェーズB -  底値の形成とキャピチュレーションを伴う弱気相場の後期

 現在の相場は、5月5日以降、このバリューゾーン(25,200ドルから33,700ドル)の内側で推移しており、これまでの弱気相場サイクルのフェーズBに近い状況となっている。確率的な見方をすれば、ビットコイン価格がメイヤーマルチプル0.8を下回ったのは、取引日のうち7.9%に過ぎない。

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 実現価格モデルは、サイクル安値圏をマッピングするためのマクロ指標である。実現価格は現在23,600ドルで取引されている。この実現価格はビットコインの供給において全てのコインの推定平均コストベースであり、コインが最後にオンチェーンで動いたときの価格に基づいたものである。過去の弱気相場サイクルでは、スポット価格が実現価格を下回って取引された場合、マクロ的な安値が確立される可能性が高くなる。

 歴史的に、市場全体のコストベースまたは実現価格は、非常に健全なサイクルのサポートレベルであり、ビットコインの取引日のうち84.9%がこのレベルより上で終了している。言い換えれば、取引日の15.1%のみが実現価格を下回り、メイヤーマルチプルの0.8と同様の見方を示している。

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弱気相場の長期化と収益性

 過去の弱気相場の構造を評価し、潜在的なサイクル安値圏をモデル化した後、ネットワーク全体で感じられる「弱気相場の痛み」の程度を定量化することで、この主張の信頼性を検証することができる。ネット未実現損益(Net Unrealized Profit/Loss ,NUPL)指標は、時価総額の割合としてネットワーク全体の未実現利益と損失をマッピングしている。したがって、NUPLはこの市場の痛みの閾値を評価する羅針盤として使用できる。

 5月初旬以降、NUPLは18.6%から25.0%までの範囲内に収縮した。これは時価総額の25%未満しか利益を保有していないことを示している。過去の弱気相場におけるキャピチュレーション前の局面に相当する市場構造である。通常、NUPLはキャピチュレーションが発生すると、時価総額の最大-25%の未実現損失まで取引されてきた。現在の実現価格23,600ドルを考えると、23,600ドルから20,560ドルまでの価格帯は、NUPLが示唆する本格的なキャピチュレーションシナリオである。

 NUPLサイクルの安値は、失われたコインと長くHODLされたコインのいずれの結果も踏まえた上で徐々に上昇していることは注目に値する。この影響は、スポットエクスポージャーを売却せずにリスクヘッジを可能にするデリバティブの導入により、さらに強まる可能性がある。

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 NUPLは市場における未実現損益を追跡しているが、実際の投資家の反応を測るためには実現損失を調査することで補足できる。ここでは、累積実現損失(90日)は、市場規模を正規化するために実現損失との比率として示されている。メイヤー・マルチプルモデルで強調されている2段階の弱気相場パターンと同様に、累積実現損失のチャートも弱気相場における2つの段階を表している。

 現在のサイクルにおける初期の損失は、2021年5月から7月にかけて起こったATH後の暴落によってすでに実現されている(フェーズA)。現在の市場は、キャピチュレーションイベントが起こる確率が高く、持続的な損失がオンチェーンで実現されるフェーズBを経験している。

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長期保有者が負う損失

 弱気相場の顕著な傾向として、投機筋が市場から一掃されるため、短期保有者(STH)のシェアが減少することが挙げられる。その結果、STHが保有するコインは減少し、長期保有者が蓄積して流通するコインを独占することになる。この傾向は、弱気市場の間に起こる2つの並行した出来事による結果である:

 ・フェーズA: トップ付近で購入した短期保有者はすぐに損失に陥り、含み益のある全体の供給が減少する。
 ・フェーズB: 長期保有者は、新しく取得したコインが含み損になるにもかかわらず、弱気相場の間は蓄積を継続する。

 現在、流通するコインの約58%が含み益状態になるが、過去3回に起こった市場のキャピチュレーションでは、この指標は50%未満まで落ち込んだ。STHの含み益のある供給はわずか2.2%であり、短期保有者はほとんど損失を出していることになる。一方、LTHは含み益のある供給の割合が4月の68.5%から現在は55.7%に低下しており、市場の含み損の大部分をLTHが担っていることが分かる。

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 この観測に対して新たな側面を加えるために、「長期保有者が保有する含み益のある供給量」のシェアを見てみよう。弱気市場の後期において、長期保有者の優位性が高まっている(または短期保有者のシェアが低下している)ことが顕著であることが示されている。

 過去2回の長期弱気相場では、この指標の14日移動平均が90%の基準線を突破している。これは、弱気な価格行動による心理的なプレッシャーの下で、短期保有者が市場の利益の10%未満を保有していたことを意味する。最近の30Kドル以下のレンジへの下落により、この指標は90%の閾値を超えた。このレベルを超えると、STHは本質的にピークに近い痛みの閾値に達し、含み益はほとんど無くなり、LTHが残りの含み益のある供給を支配する状態となる。

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 さらに、LTHとSTHの含み損の分布を調べると、現在のサイクルについて次のような知見が得られる:

 ・現在、価格は2021-2022年サイクルの安値で取引されており、2021年1月以降の買い手のほぼ全員が含み損を抱えていることになる。
 ・含み損を抱えるLTHの供給量は2021年5月以降増加しているが、その後は26%(STHは16%)で高止まりしている。これは、LTHがより多くの含み損を負っている(コインの所有が建設的に入れ替わっている)ことを示しており、現在2021-22年サイクルの供給量の約62%(26% / (26%+16%))を含み損で保有している。
 ・STHの含み損のある供給量もほぼ安定しており、供給量の16%から18%程度で推移している。なお、155日前(2022年1月1日)の価格は47kドルだった。このように、前回の2022年第1四半期の調整レンジを通じて、STHの大半のコインがLTHによって蓄積された。

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 プレッシャーを受けているLTHの行動分析は、激しい価格調整に対する反応を検証しない限り完結できない。ここでは、取引所に預けられたコインに特化した、長期保有者の実現損益の指標である収益バンド指標を見てみよう。2018-19年の弱気相場と2020年3月のコロナ暴落では、実現損失の累計が時価総額の0.006%を超えている。このパターンは、現在5月上旬の30Kドル以下の急落時に再発している。この調査の前提として、我々は強調すべきことがある:

 ・現在の取引所に預けられたコインのLTHの損失は、過去の弱気市場に匹敵する規模に達している。しかし我々はまだ期間構造を把握しておらず、またドローダウンの大きさは、過去に起こった75%以上のドローダウンと比較するとまだ58%である。

ストレス下のマイナーの収益

 現在の弱気市場の深刻さを測定し、長期保有者の対応する行動を調べた後は、収益の減少に対するマイナーの反応を評価する。

 この分析の基礎を築くには、まずマイナーの視点から市場の収益性を定量化する必要がある。ピュエルマルチプル(Puell Multiple)は、ビットコインの日次発行額(米ドル建て)とその365日移動平均の比率である。

 ピュエルマルチプルの全歴史を評価すると、先に述べた2段階の弱気相場のシナリオがここでも明らかになる。弱気相場の初期段階では、ピュエルマルチプルは通常0.6から1.0の範囲に入り、現在の収益が平均して昨年より最大40%低いことを示している。その後、弱気相場が長期化し、キャピチュレーションの動きが見られるようになると、ピュエルマルチプルは0.5を下回る水準に低下する。

 この指標は現在0.66で、キャピチュレーション・レンジに入る寸前である。この指標と価格の高い相関を考慮すると、価格が-10%以上下落した場合はマイナーの収入源に大きなストレスがかかることを示唆している。

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 2021年11月以降、米ドル収益が大幅に減少した反動によりマイナーの残高が減少し、追加支出が行われていることが観察される。マイナーのネットポジション変化の指標は、現在、マイナーの残高は1ヶ月あたり5k~8k BTC減少していることを示している。

ライブチャート

 ATHから最初のドローダウンの間、マイナーの残高は約12k BTCの純増となっていたため、これはマイナーの行動における明確な変化を示している。LUNA FoundationがUSTペッグを維持するために行った80k BTC以上の売却による市場の暴落に反応し、マイナーが10k BTCを売却したことで、市場の売り圧力に拍車をかけた。

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時系列的なダイバージェンス

 マイナーの総収入が56.7%減少したにもかかわらず、 ネットワークの難易度はATH以降132%上昇した。この難易度の大幅な上昇は、既存のマイナーが事業を拡大し、新規マイナーが大幅な収入減にもかかわらずネットワークに参加したことを示唆している。そのため、マイニング用ハードウェアや設備に対する最近の資本支出は、マイナーのバランスシートに継続的なプレッシャーを与える可能性がありそうだ。

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サマリーと結論

 ・メイヤーマルチプルと実現価格に基づき、現在の市場はビットコイン価格をビットコイン取引日における15%未満に見られるレベルまで押し下げた。
 ・ネットワークの未実現損失は、後期弱気市場の終盤に位置しているが、まだ完全なキャピチュレーションを示していない。しかし、2021-22年サイクルの下限価格では、2021年1月1日以降の買い手はすべて含み損状態になる。
 ・現在、長期保有者は含み損の大部分(62%)を負担しており、この弱気相場を通じて徐々にではあるが、建設的な所有者(より信念が強い長期保有者)への交代が行われたことを示している。
 ・マイナーはますますストレスを受けているようで、バランスシートの縮小と最近のオペレーション拡大の兆候が難易度の上昇を通じて表れている。これは、各コインのマイニングコストが上昇し、米ドル建ての報酬が減少していることを意味しており、マイナーによるキャピチュレーションサイクルの可能性を示唆している。


製品アップデート

 製品の更新、改善、指標やデータの手動更新は、すべて変更履歴に記録されているので、ご参照ください。

 ・ワークベンチにshift, if-then, corr機能を追加した。returns機能はpercent_changeに名称変更した。
 ・新しいイーサリアムブレイクダウン指標:ガス使用量(絶対値)ガス使用量(相対値)トランザクションタイプ(絶対値)トランザクションタイプ(相対値)
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 ・プロユーザー向けの新しいダッシュボードをリリース:GNエンジンルーム
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