ドミノ倒し:全面的なキャピチュレーション

 今週のビットコイン市場では、オンチェーンDeFi市場とオフチェーンの両方において、取引所や貸し手、またヘッジファンドが支払い不能となり、流動性低下や強制ロスカットが発生する大規模なデレバレッジイベントが引き起こされた。6月18日に市場は2017年のATHである20kドルを下回り、17,708ドルという著しく安い価格に達したが、日曜日に20kドル台に回復した。

 週末はビットコインとデジタル資産が唯一取引可能な商品であるため、マクロ的な懸念とドルへの流出に対する需要が市場から取り除かれたように見える。この極端なデレバレッジイベントの結果、マイナーや長期保有者、市場全体など、多くのエンティティでキャピチュレーションのシグナルが見られ始めている。

 本ニュースレターでは、これらの様々なセクターを調査し、最大の経済的苦痛まで達したか否かを評価する。


翻訳について

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今週のオンチェーンダッシュボード
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収益性はどん底に

 市場が2017年のATHである20kドルを下回ったため、投資家の信念と市場の収益性が極度に試されている。

 実現損失指標(The Realized Loss metric)は、高い価格で取得されたコインと、その後オンチェーンで売却されたときの価格との間の価値のデルタの合計を測定する。実現損失は過去最高を記録し、3日連続で市場全体の実現損失が1日あたり24億ドルを超え、合計73.25億ドルに達した。上記のような収益性のストレスが、投資家の損失を生み出した。

ライブチャート

 また、特定の投資家コホートの収益性は、全コインが最後にオンチェーンに移動した時の平均価格である実現価格に照らすことで調査できる。下図は、3つのビットコインコホート(市場全体、短期保有者STHs、長期保有者LTHs)のMVRV比率を示しており、現在はこれらすべてが損失状態にあり、平均コストベースより低いコインを保有していることが分かる。

 3つのコホートすべてが含み損を抱えた過去の事例は、弱気市場の後期のキャピチュレーションと一致しており、上記の収益性指標と整合性があることが分かる。

ライブワークベンチ

 第23週目のニュースレターで取り上げたように、弱気市場の拡大を追跡するための強力なツールでは、供給とウォレットベースの指標にわたって収益性が低下している。我々は以前のサイクルで売り手を疲弊させた、投資家に対する経済的苦痛の限界値を探っている。

 供給におけるこれらの最大の経済的苦痛の閾値は、様々な面から調査できる:

 ・収益のある供給 🔵は、市場が$17.6kまで下落したことで、わずか49.0%まで下落し、供給の半分以上が未実現損失となった。過去の弱気相場の底値は、供給量のうち利益があるのが40%から45%の時である。

 ・収益のあるアドレス🟠は、個々のウォレット間の収益性を評価し、収益のある供給と同様の結果を返す。この指標は、2018-2019年の弱気相場とコロナクラッシュにおける最低レベルより10%だけ高く、これらの底値よりほんのわずかだけ痛みが少ないことを示している。

 ・収益のあるUTXOs🟢は、すべての未使用のアウトプットに基づく市場の収益性を測定できる。この指標は、すべての未使用のトランザクションアウトプット(UTXO)の26.7%が損失であることを示している。歴史的に見ると、弱気市場の底では、すべてのUTXOのうち50.2%~81.1%が損失状態であった。

 ・収益のある長期保有者の供給🔴は、ビットコインにおける最強の投資家のストレスに対する深刻さを測る指標として、長期保有者の収益性を追っている。現時点では、長期保有者の供給のうち35%が損失を出している。これは、LTHが42%から51%の供給量を含み損で保有していた過去の弱気市場と比較して、このコホートがまだ痛みを背負っていないことを意味する。

 これらの指標は時間の経過とともに、コインが失われ、強くHOLDされるにつれて、自然とゆるやかに推移することが予想されている。そのため、週末の売り相場は、収益性と投資家を歴史的な経済的苦痛に陥れたと考える。

ライブワークベンチ

リアルタイムで進行するマイナーのキャピチュレーション

 ビットコインはデジタル資産と見なすことができ、多くのコモディティと同様に生産コストと関連する傾向がある。マイニングの難易度と時価総額の対数回帰モデルを組み立てることで、マイニングされたBTCにおける全ての持続コストを推定できる。

 この生産コストのモデルは現在$17,600で取引されており、興味深いことに、これは週末に最安値を更新した。

ライブワークベンチ

 今週のオンチェーンの第23週目の調査では、収入の減少と生産コストの上昇により、マイナーの収益にストレスがかかっていることが明らかになった。マイナーの行動は、現在、マイナーのキャピチュレーション局面が進行中であることを裏付けている。最初の証拠はハッシュリボン(Hash Ribbon)であり、現在ハッシュレートはATHから10%低下し、マイニングASICリグがオフラインになることを示す反転を見せている。

ライブチャート

 さらに、2つのツールを使って、マイナーのストレスの存在を確認することができる:

 ・ピュエル・マルチプル(Puell Multipl)は、マイナーの米ドル建て収入を追跡するオシレーターで、現在は累計収入が年間平均より65%低いことを示している。マイナーの収益が減少していることから、マイナーのストレスの可能性を示唆される。
 ・難易度リボン(Difficulty Ribbon)の圧縮(正規化)は、明示的なマイナーストレスモデルであり、ハッシュリボンと同様にリグが実際にオフラインになっているかどうかを監視している。難易度が最近上昇傾向にあることから、BTC の生産コストが上昇していることも確認できる。

 これら2つのモデルに基づくと、現在進行中のマイナーの収入縮小は、2021年5月から7月にかけて起こったグレート・マイナー・マイグレーションよりも悪い。しかし、マイナーは2018-2019年と2014-2015年の弱気相場でさらに悪い日を経験しており、ピュエル・マルチプルは0.31(年間平均に対して69%の収入減)に達している。

ライブワークベンチ

 マイナーによるキャピチュレーションの確率を査定するには、これら2つの指標を組み合わせ、ピュエル・マルチプル<0.6と難易度リボンの圧縮<0.06が合わさるところを探し、マイナーキャピチュレーションツール(Miner Capitulation Tool)(下の黄色のゾーンに表示)に集約する。

 この議論をさらに補強するものとして、マイニング残高コストベーシスの指標として、マイナー向けの実現価格(Patoshiコインを除く)を推定すると現在$26,170となっている。

 興味深いことにキャピチュレーションゾーンは、市場価格が、推定されたマイナー向けの実現価格を下回って取引されている期間と重なることが何度もあった。コロナの暴落以来初めて、最近の17.6kドルに向けた市場の暴落でこの重なり合う構造が見られた。

ライブワークベンチ

 このようなマイナーに対する広範な経済的圧力により、彼らの金庫からの流出量は、1ヶ月あたり5k~8k BTCに達した。これは現在、2018-2019年の弱気相場のキャピチュレーションイベントに匹敵する。驚くべきことに、ビットコインの調整レンジの安値圏(28kドル)が割れた後にマイナーは売却を停止し、実際に残高は1か月あたり2.2k BTC増加した。

ライブチャート

新しいGlassnodeの研究:DeFiの巨額なデレバレッジ

 イーサリアムのDeFi市場は、わずか6週間で$1240億以上の資本が流出し、劇的なデレバレッジが進行している。イーサリアムの投資家は現在、スポットポジションで大きく含み損の状態になっており、歴史的に大きな実現損失を抱え込んでいる。

 最新の調査結果はこちらからご覧ください。

DeFiの巨額なデレバレッジ

長期保有者:キャピチュレーションの危機に瀕している

 現在の弱気相場でのドミノ倒しは、新たな局面を迎えている。マイナーとともに、長期保有者もプレッシャーを感じ始めており、その多くが加速的に売却を余儀なくされている。先週、長期保有者の供給量は178k BTC減少し、これは保有量全体の1.31%に相当する。

ライブチャート

 1年以上の供給(Revived supply 1yr+)が復活したことで、古いコインによる売却が行われ、1日あたり20k~36k BTCの速度へと加速していることが確認された。これは、ビットコインの長期保有者コホートにさえ、恐怖とパニックが流れ込んでいることを反映している。

ライブチャート

 長期保有者の経済的ストレスは、LTH-MVRV(市場価格と長期保有者の実現価格の比率)を使ってマッピングできる。最近起こった17.6kドルへの暴落はこの指標を0.85に押し上げ、LTHは平均して15%の含み損を抱えていることになった。これはコロナの暴落時につけた値よりも低い値であり、2018-2019年弱気相場のキャピチュレーションの底値をわずかに上回っている。

ライブチャート

 長期保有者の含み損が増加する中、この損切り(Selling-in-loss)の程度はLTH-SOPRによってモニターできる。この指標は、毎日コインを売却しているLTHのコストベーシスと市場価格を比較したものである。

 過去のLTHのキャピチュレーションは、この指標が1を下回るときに起きており、LTHが長期保有後に損失を出していることを意味する。弱気市場の最安値では、この指標は過去に0.4から0.6の範囲で推移しており、これは40%から60%の損失を示している。

 したがって、損失を出したLTHによる現在の売却行動は2020年3月と重なるが、2015年や2018年の弱気相場の安値時ほど深刻ではない。

ライブワークベンチ

 また、30日間にわたるLTHの純コイン量の分配を追跡することで、相対的な売り手側の行動を分析することができる。ここでは、過去の弱気相場におけるこれらの投資家による行動の比較の概観を得るために、LTHの総供給量で値を正規化する。

 最近の急落局面では、LTH投資家は供給量の1%強を月単位で売却しており、この割合はコロナの暴落と2021年12月のATM後の調整時と一致している。この水準は、2018-2019年の弱気市場における最大流出額の約2倍である。

 なお、LTHの最大の流出は、実際には弱気相場(経験豊富な投資家がパニックになって損切りする)よりも強気相場(利確)に関連している。

ライブワークベンチ

取引所へ流入した痛みを追跡

 取引所は依然としてビットコインの主要な取引所であるため、流入するコインのフローを特徴付けることで、ボラティリティやドローダウンに対する市場の反応をより正確に観察できる。次の図は、取引所へ流入した週次ネットフロー(赤色)または取引所から流出した週次ネットフロー(緑色)が全取引所残高の1%を超える場合のみを示している。

 最近の注目すべき事件を振り返る:

 ・2018-2019年の弱気相場では、週次流入額>全取引所残高の+1%というレジームが1ヶ月以上続いた。
 ・LUNAの暴落では、純流入額が全取引所残高の+4%に到達した。
 ・現在の市場では、この指標は-2.8%の純流出を返しており、これはコロナクラッシュ後の流出と同様である。

 このように、激しい下落の値動きにもかかわらず、今週の取引所残高は全体における2.8%の純減少である。

ライブワークベンチ

 次に、取引所への流入の収益性を、実現損益の度合いで特徴付けることができる。ここ1ヶ月の取引所流入は実現損が大半を占め、その規模は時価総額の1.5%を超えている。

 これは2021年5月~7月の売り相場を超えるが、しかし2018~2019年の弱気相場やコロナの暴落の極端な安値に比べれば半分程度の厳しさである。

Glassnodeエンジンルームのライブチャート

サマリーと結論

 ビットコイン市場は、2021年11月のATH以降、現在は2つの明確なキャピチュレーションフェーズを経験している。最初のフェーズは、Luna Foundation Guardの強制売却が80k以上のBTCを売却したことによって引き起こされ、2つ目は今週オンチェーンとオフチェーンの両方において、業界全体の大規模なデレバレッジを介して引き起こされた。

 BTCは推定生産コストに近い価格で取引され、収入は年間平均を大きく下回り、かつハッシュレートはATHから著しく低下しており、マイナーは大きな経済的ストレスにさらされている。今週、市場全体では70億ドル以上の損失が発生し、長期保有者は178k BTCを追加で売りに出した。

 最近(23週目24週目)議論したように、ビットコイン市場参加者は全体的に歴史的に高い経済的苦痛の閾値にあるか、それに非常に近い状態にある。最近は売り手のほとんどがロスカットによるものであるため、市場は今後数週間から数ヶ月の間に売り手による疲弊のシグナルが現れているかどうかを注目し始めるかもしれない。


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