ハッシュレートが最高値を更新

 世界の株式・債券市場は引き続き厳しい状況にあり、今週はソブリン債や為替市場においてストレスが高まっていることが確認された。特に注目すべきは英国ギルト市場の混乱で、債券利回りは急上昇し、英ポンドは対米ドルで史上最低水準まで下落し、イングランド銀行は市場を沈静化するために量的緩和を再開した。

 このような非常事態の中、ビットコイン価格は著しく安定しており、19,921ドルから20,239ドルの間という一層狭い範囲に滞っている。このような静かな期間はビットコインにとって非常に珍しく、2018年11月のクラッシュ前や、2019年3月の急反騰前に似ている。

 著しい価格のドローダウンや世界的なマクロの混乱にもかかわらず、ビットコインのハッシュレートは今週、さらに史上最高値まで大幅に押し上げられた。前回、6月にビットコインマイニングセクターで発生しているストレスを取り上げた(WoC 23WoC 25を参照)。今週は、ビットコインの生産側を改めて深く掘り下げる。生産側は驚くほど回復しているように見えており、歴史期にそのシグナルはその後数ヶ月の間に建設的なシグナルを発している。


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今週のオンチェーンダッシュボード
 今週のオンチェーンニュースレターでは、すべてのチャートが表示されるライブダッシュボードをご用意しています。このダッシュボードと対象となるすべての指標は、毎週火曜日に公開されるビデオレポートでさらに詳しく解説しています。Youtubeチャンネルビデオポータルでは、より多くのビデオコンテンツや指標のチュートリアルをご覧いただけます。


マイニングの競争激化

 弱気市場が続く中、ビットコインのハッシュレートは1秒間に242エクサハッシュという史上最高値に達した。これは、地球上の77億5300万人が、1秒間に約300億回、SHA-256のハッシュ計算を行うのと同じ規模である。これは非常に大きな数字である。

ライブチャート

 ビットコインのハッシュリボンは8月下旬にアンワインドを開始しており、マイニングの状況が改善され、ハッシュレートがオンラインに戻りつつあることを示唆した。興味深いことに、現在の環境ではまだ価格が回復しておらず、このハッシュレートの上昇は、より効率的なマイニングハードウェアがオンラインになったこと、および/または優れたバランスシートを持つマイナーがハッシュパワー・ネットワークでより大きなシェアを持つことによることを示している。

 歴史的にハッシュリボンのアンワインドのほとんどは、その後数カ月間でより良い状況へ移行している。

ライブアドバンスチャート

 マイニング・パルスは、マイナーの活動を監視する一つのツールを提供し、600秒という目標に対する平均ブロック間隔を測定する。

 ・値が低いほど、ブロック間隔は600秒より速く、ハッシュレートが難易度調整より速くなっている。
 ・値が高いほど、ブロック間隔は600秒より遅く、ハッシュレートがオフラインになっている。これはキャピチュレーションイベントのような市場に対するショックに反応するものである。

 青色で示すように、最近のマイナーのキャピチュレーションは、5月下旬に始まり、8月上旬に回復する数ヶ月間の出来事であった。またピンク色で示したように、過去の弱気相場は通常、ハッシュレートが激しく急速に低下し、より劇的なイベントとして終えている。

 今回のような地味だが長引く下落は、単に予兆のようなものなのか、それとも資本力のある上場マイニング会社がハッシュパワーを多く保有するなどの新たな動きを反映しているのかは、まだ分からない。

ライブアドバンスワークベンチ

新サービスの更新:9月

 9月はGlassnodeにとって非常にエキサイティングな月だった。エンジニアリング、データサイエンティスト、アナリストなどのチーム全体が、イーサリアムマージとプルーフオブステークの指標の全く新しい一式を展開するために関与している。我々は、8件の分析レポート、16件の指標、19件のワークベンチコンストラクション、そして2件のダッシュボードをリリースした。

9月のプロダクトアップデートをご確認ください

生産の価格

 ハッシュレートがオンラインに戻るにつれ、マイニング難易度は一連の上方修正再開し、2021年5月におけるマイナー大移動(Great Miner Migration)のピークから27.9%上昇した。

 プロトコル難易度の上昇は、より多くのハッシュレート競争がネットワークに参入するため、1BTCあたりの生産コストの上昇を意味する。これは、コイン価格の低下によりマイナーの収益がすでにストレスを受けている時期に発生しており、理論的には、マイニング業界へ高い収入ストレスをもたらすはずである。

ライブチャート

 実際、エクサハッシュ1つあたりの獲得収益は持続的かつ長期的な下降トレンドにあり、BTC建ての報酬は現在、1日1EHあたり4.06BTCと過去最低水準にあることが分かる。

 米ドル建てでは、1日1EHあたり78k~88kドルの収益に相当する。これは、2020年の半減期の後で、BTC価格が10kドル前後(現在は~20kドル)であった2020年10月の水準に戻ったことになる。このことから、2020年10月以降に難易度とハッシュレートが66%上昇すると、ハッシュあたりの収益が約半分になる。

ライブアドバンスワークベンチ

 BTCのネットワーク全体の生産コストを評価・推定するモデルが数多く提案されているが、その多くは難易度(Difficulty)を重要な入力パラメータとして考慮している。難易度は、次のブロックを解き、報酬を獲得するために必要な全ハードルレート(All-in-hurdle-rate)を、プロトコルで定義された指標を用いて効果的に表現している。

 難易度回帰モデル(Difficulty Regression model)は、難易度と時価総額の対数回帰として計算されており、0.944という非常に高いR2係数を示している。このモデルが最後にスポット価格と交差したのは、2022年6月の売り相場における最安値である17,840ドル付近である。現在、18,300ドル付近で推移しており、これは今週の相場の安値のすぐ下に位置する。

 このことは、マイナーが深刻な収入不足に陥る可能性があることを示している。

ライブワークベンチ

 今週、アナリストのkuntahは、生産コスト、及び入力パラメータとしての難易度と発行の間の非線形関係に適合した、全く新しい評価の枠組みを提案した。このモデルは、マイニング会社の効率が最大となるポイントを捉えようとするものであり、マイナーのバランスシートが最も強いときかつ、オペレーションが収益を上げている時のみ、弱気相場の底値近辺で見られるものである。

 3つのトレースが示されている:

 ・🔴現在の推定生産コストである12,140ドルは、過去数回サイクルの取引歴史における過去数回サイクルの中心、2020-21年の強気相場の始まりあたりに位置している。これは、弱気相場のキャピチュレーションにおける安値に適合した価格フロアモデルを反映していることに留意してほしい。
 ・🟣2024年以降は24,230ドルと生産コストが半減 (難易度が一定と仮定した場合)。
 ・🟠前述の2つのトレースの幾何平均値は17,080ドルであり、マイナーの所得に深刻なストレスを与える可能性が最も高い価格であると言える。

 難易度回帰モデルと同様に、17k~18kドルの価格帯は6月にマイナーのストレスを誘発したエリアであること、また多くの生産コスト推定値と一致していることがわかる。

ライブアドバンスワークベンチ

マイナーによるキャピチュレーションリスクは去ったのか?

 マイナーの収益性と収入へのストレスに関連する価格帯を特定した後は、これらの事象を説明する一連の指標を確認する。

 まず、ピュエル・マルチプル(Puell Multiple)は、現在の日次マイニング収入と年間平均を比較する周期的なオシレーターである。ピュエル・マルチプルは、6月に現在の最低値である約0.33を記録し、マイナーは年間平均収入のわずか33%しか得ていないことを示した。その後、0.63まで回復しストレスは緩和されており、 この新しい価格体系に適応していることを示唆している。

 過去のすべての弱気サイクルでは、真の弱気相場の安値を確立する短期的な価格の回復に伴いピュエル・マルチプルにおける安値からの強い上昇を経験している。

ライブアドバンスワークベンチ

 ピュエル・マルチプルと生産コスト・モデルは潜在的なストレスモデルであり、マイナーの収益が圧迫される(したがって、コインの追加売却が必要になる)価格を推定するものである。ハッシュリボンや難易度リボン圧縮(Difficulty Ribbon Compression)など、ハッシュパワー市場の観測可能な変化のみに反応する明示的なストレスモデルを使用することで、このケースを補填することができる。

 以下のモデルは、ピュエル・マルチプルによる潜在的な収入ストレスと、難易度リボン圧縮による明白的なストレス観測を組み合わせたものである。本稿執筆時点では、このモデルは、統計的にマイナーによるキャピチュレーションの可能性があるというレベルを超えたばかりに過ぎない。

 しかし、過去のすべての弱気相場において、これが一瞬で起こる日はほんの一握りであることに注意してほしい。このように、完全な確証はまだ得られていないが、より持続的な回復のために注目すべきものの1つである。

ライブアドバンスワークベンチ

 マイナーの残高の累計を見ると、約 78.4k BTC がラベル付けしたマイナー(現在のハッシュレートの ~96%を占めている)によって保有されていることが分かる。ラベル付けされていない「その他」のマイナーコホートは、約660k BTCとはるかに大きいが、これにはビットコイン初期からのマイナーが蓄積した(そしておそらく失われた)コインが含まれている。

 これはリスクを測る指標となるものであり、収入面でのストレスにさらされる可能性のあるマイナーによって、約78.4k BTCが保有されている。

ライブプロフェッショナルワークベンチ

 評価を締めるにあたり、マイナーによる実際のコイン売却パターンを見て、彼らの金庫残高への影響を確認する。下のグラフは、マイナーのウォレットの30日間の変化であり、売却は減速しており、1ヶ月あたり約4.5k BTCのレベルにとどまっている。しかしこれは9月上旬のピークから50%減少している。

ライブプロフェッショナルチャート

 これをさらに掘り下げると、現在の売却の大部分はPoolinに関連するマイナーから供給されていることが確認できる。下のオレンジ色の曲線は全マイナーの30日間の変化を示している。青色の曲線はPoolinに特化しており、ほぼすべての売却がこの集団に関連していることを示している。

ライブプロフェッショナルワークベンチ

 Poolinはごく最近まで、業界最大のマイニングプールの1つで、2020年初頭にはハッシュレートの15%以上、9月の初めには12%を占めた。Poolinが「流動性の問題」があるという発表の後、このプールに向けられた推定ハッシュレートは急落し、今日のハッシュパワーネットワークのわずか3.7%だけを占めている。

 当時発表されたマーケットパルスレポートでは、Glassnodeツールを使用して特定のマイニングプールのハッシュレートを推定する方法を示した。この方法では、全体に対するブロック報酬収入のシェアをプロキシとして使用し、マイナーが困難な時にどれだけ早くハッシュレートをリダイレクトできるかを可視化できる。

ライブアドバンスワークベンチ

サマリーと結論

 伝統的な市場における世界的な混乱の中、ビットコイン価格は18kドルから20kドルの間で数ヶ月間調整し、驚くほど安定した状態を維持している。BTC価格がこれほど長く安定することは極めて稀であり、今後ボラティリティが高まる可能性があることを示唆している。

 今週、ビットコインマイニングのハッシュレートが史上最高値に達し、BTCの生産コストが上昇した。多くのモデルにより、BTCの平均生産コストは現在の価格のすぐ下で推移しており大幅な価格下落があれば、潜在的な収入ストレスは、急性かつ明白なストレスに変わる可能性があると我々は推定している。

 このリスクは、第2段階のマイナーのキャピチュレーションとして現れる可能性があり、マイナーの金庫にはまだ約78.4k BTCが保有されている。この全額が売却される可能性は極めて低いが、潜在的なリスクの上限を示す指標となる。


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