トランプ氏当選による最高値更新

エグゼクティブサマリー

・本稿ではビットコインが新たなATH(過去最高値)に到達した最近の上昇について、その上昇の要因、特に永久先物市場よりも強い現物市場での需要について取り上げる。

・最近の米国選挙が機関投資家の資金流入に与えた影響を分析し、キャッシュ・アンド・キャリー戦略の人気上昇に伴い米国スポット市場のETFとCME先物の建玉が急増していることを明らかにする。

・ATH発現フェーズを分析し、含み益を持つ供給量の割合が95%以上を超え続ける期間における市場のダイナミクスに焦点を当てる。

・オンチェーンのコストベーシスバンドを用いて需要の勢いを調査し、これらのコストベーシスへ接近することが強い市場需要の時期を示す可能性があることを示す。

・最後に、実現利益となるレベルを検討し、利益確定に向けた動きが活発化しているものの、現在のレベルは過去のATHピーク時に見られた水準を下回っており、さらなる成長の余地があることを示唆する。

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本稿の全てのチャートは「今週のオンチェーン」ダッシュボードでご覧いただけます

選挙後に見られた急上昇

 米大統領選挙の結果、トランプ政権のもとで暗号資産により友好的な姿勢が取られるとのコンセンサスが得られたことで暗号通貨市場にポジティブな見解が浸透し、ビットコインはATHを更新した。このATH更新は主たるBTC:為替ペアの全てに波及した。

 このチャートは、ビットコイン(BTC)と様々なフィアット通貨および金(XAU)ペアにおけるATHからの下落率を示している。注目すべきは、2024年6月26日にBTC:TRY(トルコリラ)ペアが最初にATHを迎え、他のペアが追随する形となった。2024年11月6日、ほぼすべてのBTC:為替ペアがATHを更新したが、BTC:金はビットコインの現在の評価額が$88.6kであるにもかかわらず、ATHを約19.9%下回る水準にとどまっている。

ライブチャート

 これまでの歴史的な傾向として、米大統領選挙はビットコイン市場のパフォーマンスに大きな影響を与えている。特に、価格や実現時価総額(ビットコインネットワーク全体に投資された累積資産を表す指標)において著しい変動が観察されている。

2016年の選挙(共和党政権):

・実現資産(決済された資金)は選挙前に20.3%急増し、選挙後は55.5%増加した。
・価格は選挙前に34.7%上昇し、選挙後は124.6%上昇した。

2020年選挙(民主党政権):

・実現資産は選挙前に16.5%、選挙後に196.3%増加した。
・価格は選挙前に35.4%上昇し、選挙後は306.8%急騰した。

2024年選挙(共和党政権、現在に至るまで):

・実現資産は選挙前までに13.3%増加し、選挙後は2%とわずかに増加した。
・価格は選挙前に10.1%上昇し、選挙後(現在に至るまで)は27.9%上昇した。

 現在のサイクルは、これまでの選挙前の反応と比較するとより控えめな反応を示しているが、それでも非常に楽観的な傾向が見られている。市場は、今後数年間で予想される暗号資産政策の変化に適応しつつあると言えるだろう。

ライブチャート

 先日のATH突破した勢いは続行し、ビットコインは過去最長の週足ローソク足を記録、$11.6kという驚異的な上昇を見せた。この上昇は過去の週足での動きを大きく上回っており、統計バンドの上限(1標準偏差)の5倍近くに達しており、かつてない程の強気が見られている。

 この例外的な値動きは市場の楽観的な見方を反映しており、予想される規制環境が持続的な資本流入の材料として機能するとの市場参加者の考えが表れている。

ライブチャート

スポット市場がもたらすブレイクアウト

 このチャートはCoinbaseのスポット市場における日時累積取引量デルタ(Cumulative Volume Delta, CVD)を示したもので、買い手側の圧力が大幅に上昇していることがわかる。最近は日次スポットCVDは$143Mに達しており、3月13日に記録された$152Mという前回の最高値に近づいている。

 7月以降、ビットコインの上昇相場では、Coinbaseにおいて買い手側の強い関心が急増しており、米国最大の取引所の1つであるCoinbaseのスポット市場の需要は堅調であることを示している。このような投資家の持続的な投資意欲は市場参加者がデジタル資産に対してますます積極的になっていることを示唆しており、現状のスポット市場の上昇を支えている。

ライブチャート

 Coinbaseのスポット市場において観測された堅調な買い手側の圧力に続き、最近の上昇相場では米国スポット市場のETFへの大幅な資金流入が見られており、運用資産は過去30日間で$88億増加している。この急増はCME先物建玉の増加額$69億を上回り、ETFを通じたスポット市場のエクスポージャー選好が顕著であることを示している。

 ETFへの資金流入とCMEの建玉の相関関係は、キャッシュ・アンド・キャリー戦略の優位性を浮き彫りにしている。またより強いETFの需要は、この市場上昇局面において直接的な現物エクスポージャーへ転換を強調している。

ライブチャート

 通常、スポット市場における持続的な需要のモメンタムは永久先物市場にも同様のポジティブなモメンタムを引き起こす。11月12日に$1.59M(7日間平均$392k/時間)に達した永久先物市場における直近のプレミアムの最高値は、堅調な投機面での需要を反映している。

 しかし、この水準は3月中旬の高値を下回っており、現在の上昇相場はスポット市場主導のものであるとの仮説を裏付けている。永久先物市場における控えめながらも顕著な需要は、これまでの価格上昇がレバレッジを伴う投機ではなく、現物需要によって主導されていることを強調している。

ライブチャート

楽観期の顕在化

 ビットコインは価格が更新される新しい局面に入り、流通する全ての供給が含み益となっている。このチャートは、含み益で保有されている供給の割合と、この割合が連続して95%以上である日数を月次ベースで示している。

 歴史的に見ると、このような楽観的局面は約22日間持続した後に調整が発生し、供給量の5%以上が当初の取得価格を下回る。現在の上昇相場は12日連続で高い含み益の保有水準を維持しており、市場心理の強さを示すと同時に過去のパターンに基づき今後発生する調整の可能性も示唆している。

ライブチャート

 このチャートは、ATH発現フェーズにおける累積実現利益(cumulative realized profit)を算出したもので、利益確定に向けた動きにおける規模を浮き彫りにしている。歴史的に、月間の実現利益は$300億から$500億の範囲で推移しており、需要が減少する兆候が現れると、しばしば市場の冷却期間が訪れることを示している。

 現在、新たなATH発現フェーズに入り$204億の利益確定が観測されている。利益確定規模は大きいものの、依然として過去の最大値は下回っており、潜在的な需要枯渇に達する前に更なる利益確定が行われる余地があることを示唆している。

ライブチャート

発現フェーズバンド

 新たなATH発現フェーズを迎えるにあたり、この活発な市場の動きを把握するにあたり最も効果的な価格モデルを特定することが重要である。このチャートは、新規参入した投資家のコストベーシスと、統計上の上限バンドと下限バンド(±1標準偏差)を示している。

 ATH発現フェーズでは、新規投資家が高値で参入する強い需要の勢いによって、ビットコインの価格が上限バンドに接近し、何度も上値をトライする傾向がある。現在、ビットコインの価格は$87.9kで、バンドの上限である$94.9kにわずかに届いていない。特に上限および中間バンドへの接近状況をモニタリングすることで、上昇局面で市場に参入しようとする新規投資家の熱意を反映し、市場の需要が著しい時期を強調して見ることができる。また、強い需要が減速する時期や、多くの既存保有者が売り圧力を強める可能性のある水準を見極めることもできる。

ライブチャート

 現在、実現利益の取引量は1日あたり約$1.56Bで推移しており、そのうち長期保有者が$720Mを占め、全体の46%に相当する。

 利益確定の動きは増加しているものの、実現利益の総取引量は過去のサイクルにおけるATH時(1日あたり$3Bを突破し、その50%以上は長期保有者によるもの)に記録された水準の約半分に留まっている。このことは、需要が引き続き流入する場合には更なる上昇余地があることを示唆しており、典型的な最高値レベルの利益実現に達するには、より多くの売り圧力が必要である可能性を示唆している。

ライブチャート

サマリーおよび結論

 本稿では、主に米国スポット市場のETFによる堅調な需要によってもたらされた直近におけるビットコインのATHについて考察した。選挙後、機関投資家の関心の急上昇に伴いCME先物やETFへの資金流入が顕著となり、スポット市場に対するエクスポージャーが好まれ、ビットコインは新たなATH発現局面に入った。現在、流通量の95%以上が含み益となっており、その後は大幅な利益確定による売却が見られている。

 流通するBTC供給量のほぼ全てが現在含み益で保有されているが、これは利益確定の動きの大幅な増加によってバランスが取れている。短期保有者と長期保有者の両方による実現利益は増加しているものの、依然として過去のATHを下回っており、これは多くの投資家が価格上昇を待ち望んでいることを示している可能性がある。


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