収益が減りつつある弱気相場

 過去12ヶ月間と価格動向の低迷は短くなく、ビットコインとイーサリアムにおける長期的なCAGRレートは大幅に下落している。これは、オンチェーン手数料市場に表れているように、両チェーンのブロックスペースに対する需要が次第に減少していることに裏付けられている。

収益が減りつつある弱気相場

 先週のLUNAとUSTの破綻に伴う業界全体における売り相場の後、市場はレンジ相場期に入っている。ビットコイン価格は、高値31,300ドルから安値28,713ドルの間という比較的狭いレンジで取引された。

 ビットコイン市場はこれで8週連続の下降相場となり、週足の陰線のローソク足が連続した時期は史上最長となった。今週は、ビットコインとイーサリアムにおける短期(月足)と長期(4年足)の両方における収益のプロファイルに注目する。ここから、今回のドローダウンがアセットクラス全体の市場パフォーマンスに著しい打撃を与えていることがわかる。

 さらに、デリバティブ市場の評価では、少なくとも今後3~6カ月間はさらなる下落の恐れがあるとの見通しが示されている。オンチェーンを見ると、イーサリアムとビットコインのブロックスペースにおける需要が数年来の低水準に落ち込んでおり、EIP1559によるETHの燃焼速度も過去最低となっていることが分かる。

 価格の低迷、デリバティブの価格に対する恐怖感、ビットコインとイーサリアムのブロックスペースの需要が極めて乏しいことが相まって、買い手に対しては今後も逆風が吹くと推測される。


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BTCとETHの収益は減少しているのか?

 市場のバリュエーションが高まるにつれ、ビットコインの収益プロファイルは一般的に減少することが予想されるという一般的なコンセンサスが形成されている。これは、以下のような多くの要因を反映している(ただし、これらに限定されるものではない):

 ・市場規模が大きくなったことで、いずれか一方の方向に動くにはより多くの資本が必要となる。
 ・機関投資家の資本、より高度なトレーディング戦略、ボラティリティをヘッジし安定させるために行われたデリバティブの導入。
 ・情報の非対称性の減少と、リスクやパフォーマンス、相関関係、サイクルの挙動に対する理解の向上。

 ビットコインは歴史的に約4年の強気/弱気サイクルで取引されており、しばしば半減イベントと関連している。以下のチャートは、ビットコインの4年間の複利成長年率(CAGR)をプロットしたものである。

 CAGRは2015年に200%以上あったものから現在は50%未満まで低下しており、収益の長期的な減少を視覚化できる。特に2021年5月の売り相場の後に4y-CAGRが著しく低下しており、これが現在の弱気相場トレンドの発端となった可能性が高いと我々は主張している

ライブチャート

 短期的に、ビットコインの月間収益プロファイルは-30%のマイナスパフォーマンスという低調なものである。事実上、ビットコインはこの1ヶ月間で毎日、市場価値の1%を失っている。

 このマイナス収益は、12月4日のデレバレッジの時よりもわずかに悪化しているが、5月~7月ほど深刻ではない。毎月の収益がこれほど乏しい期間は比較的珍しいが、ほとんどの場合は弱気市場の始まりや終わりなど、高いボラティリティを伴うドローダウンイベントに関連している。

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 イーサリアムの直近数ヶ月の収益プロファイルは、-34.9%という比較的低いパフォーマンスではあるが、ビットコインと非常によく似ていることがわかる。これは、これら2つの資産の基本的な性質が大きく異なるにもかかわらず、パフォーマンスの相関が依然として強いことを示している。

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 さらに、ビットコインとイーサリアムのCAGRパフォーマンスにおいて、特に弱気トレンド時に興味深い相関を見ることができる。2020年3月以降の見通しが不透明な時期、そして2021年5月に始まった弱気相場の時期にも、両資産のCAGRプロファイルは収束している。イーサリアムもまた、時間の経過とともにリターンのプロファイルが減少しているように見える。

 ETHは一般的に強気トレンドの時にBTCをアウトパフォームしているが、これらの乖離は時間の経過とともに弱くなっているように見える(上方乖離が低下している)。より弱気なトレンドでは、ETHのCAGRはしばしばBTCをアンダーパフォームする傾向があることが見てとれる。

 過去12ヶ月間、両資産における4年のCAGRは約100%/年から、BTCではわずか36%/年、ETHでは28%/年に減少しており、この弱気相場の深刻さを浮き彫りにしている。

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 ビットコインは時価評価額において最大のデジタル資産だが、ブロックチェーンやコイン、プロトコル、トークンなどが進化し続けるエコシステムの中に存在している。イーサリアムは、市場のリーダーとしては長年にわたり第2位に位置しており、デジタル資産のリスク選好に対する市場の意見の前兆と見なされることがよくある。

 この相対的なパフォーマンスとセクターローテーションを追跡するための一般的なツールは「ビットコイン占有率」である。以下の占有率バリアントは、ビットコインとイーサリアムの時価総額における相対パフォーマンスのみを考慮したものだ。このマクロ的な「セクターローテーション」から、具体的かつ時価総額が高いコインの相対パフォーマンス指標を導き出すことを試みている。ここから、我々はいくつかの観察を行うことができる。

 ・BTC占有率のダイバージェンスの減少(緑の矢印)は、投資家らがリスクカーブのさらに外側へ移動し始めるため、初期から中期段階における強気市場の典型的な例である。
 ・BTC占有率のダイバージェンスの上昇(赤の矢印)は、リスク選好度が低下し、ビットコインがアウトパフォームする傾向がある。初期段階における弱気市場の典型的な例である。

 現在の市場では、11月のATHに続いて、BTCの優位性に寄ったダイバージェンスが発生している。LUNAとUSTの崩壊によってデジタル資産のリスクカーブに否定的な注目が集まったことを考えると、この傾向は注目しておくべきかもしれない。なお、2018年の弱気相場に対してイーサリアムの優位性は依然として長く高止まりしており、コインの年齢と成熟を伴うETHの市場評価の向上を示唆している。

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デリバティブ市場はさらなる下落を予想

 デリバティブ市場に目を移すと、BTCとETHの間に別の相関性が存在していることがわかる。これは先物のキャッシュアンドキャリー利回りで確認できる。2020-22年のサイクルを通じて、両資産からほぼ同等の3ヶ月物のローリングイールドを得ることができ、乖離している期間はほとんどない。これは、トレーダーが流動性と取引量が許す限り、市場で実現可能なあらゆる利回りを利用していることを示唆するもう1つのデータポイントである。

 現在、両資産の3ヶ月物のローリングベーシスイールドは約3.1%であり、これは歴史的に非常に低い水準である。しかし、これは米国10年債利回りの2.78%を上回っており、資本がこの分野に再び参入する理由となり得るだろう。

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 とはいえ、オプション市場は、特に今後3~6カ月間の短期的な不確定性とダウンサイドリスクを織り込み続けている。予想変動率(インプライド・ボラティリティ)は先週の売り相場で大幅に上昇した。アット・ザ・マネーの短期オプションの予想変動率は50%から110%へと2倍以上になり、6ヶ月物オプションは75%に急騰した。今回で長らく非常に低い水準で推移してきた予想変動率は上方向へブレイクしたといえる。

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 このような重い弱気相場が進行し、価格パフォーマンスは低下しているため、市場がプットオプションを顕著に選好するのは当然のことである。プットとコールの建玉比率は、過去2週間で50%から70%に上昇し、市場はさらなるダウンサイドリスクに対しヘッジしようとしている。

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 第2四半期末までの見通しでは、プット・オプションの人気が高く、主な権利行使価格は2万5000ドル、2万ドル、1万5000ドルとなっている。コールオプションの建玉は著しく少なく、建玉は主に権利行使価格の4万ドル付近に集中している。

 このことは、少なくとも年央までは、市場はリスクヘッジやさらなる下降相場に対する投機を強く望んでいることを示唆している。

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 しかし、長期的に見ると、年末のオプションの建玉は著しく建設的である。コールオプションの選好は明らかで、権利行使価格が7万ドルから10万ドルのあたりに集中している。さらに、プット・オプションの権利行使価格は2万5,000ドルと3万ドルが主流で、これらは年央よりも高い価格水準にある。

 このような分散的なオプションの建玉から、特に目先(2~3ヶ月)の市場は非常に不透明であるように思われる。しかし、投機筋は予想変動率の低下を好機と見て、年末にかけて一層建設的な見方をしているようだ。

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オンチェーンはゴーストタウンに

 おそらくデリバティブ市場で現した短期的な恐怖の影響を強く受け、ビットコインとイーサリアムの両方におけるオンチェーン活動は依然として軟調である。結局のところ、ブロックスペースとネットワークの利用に対する高い需要は、一般的にネットワークの混雑と取引手数料の高騰として表れる。先週のビットコインはボラティリティの中で支払われた手数料の総額が2倍になったものの、2021年5月以降は1日あたり10-12BTC前後で低迷している。

 なお、ブロックスペースにおける需要不足が主な要因であることは変わりないが、ビットコインのオンチェーン手数料の低下を加速させる要素については第15週で詳しく取り上げた。

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 ブロックチェーンエコシステムは非常に活発であるにもかかわらず、イーサリアムもブロックスペースにおける需要が大幅に枯渇している。ネットワークには多くのアプリケーションや金融プロトコル、トークンがあるものの、イーサリアムの平均ガス価格は依然として下落しており、現在はわずか26.2Gweiとなっている。

 注目されていたNFTのミント時における数少ない急上昇と先週の売り相場を除き、イーサリアムのガス価格は12月以降から構造的な下落傾向にある。平均ガス価格は、2021年5月~7月の安値と2020年3月以降の見通しが不透明な時期と一致する水準にある。

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 イーサリアムのブロックスペースにおける需要減少の影響から、EIP1559プロトコル実装によるETHコインの燃焼枚数が純減した。Bored Ape Yacht Club 'Otherside' NFT ミントの期間中に38,940 ETH/日の燃焼を記録した後、現在の燃焼率は過去最低を記録している。

 今週は2,370ETHが燃やされたが、これは5月の開始時と比べて50%減であり、ミント供給量において18.4%の燃焼率(つまりミントされたETHの81.6%が流通している)に相当する。18.4%の燃焼は0%より多いものの、追加でコインが供給される可能性もあり、需要の弱まりは価格にとって逆風となる可能性がある。

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 最後に、イーサリアムのブロックスペースにおける相対的な需要は、人気のあるDeFiトークン(AAVE、COMP、UNI、YFI)に関連するオンチェーン活動で確認できる。以下のチャートは、これらのトークンと取引しているアクティブなアドレスの数と、それぞれ米ドル建ての取引高を示している。これらは比較的単純な指標と比較だが、価格パフォーマンスとの関係は非常に明白である。

 オンチェーン活動度とDeFiトークンの価格パフォーマンスには強い相関関係があり、現時点ではいずれも全体的に著しく停滞していることが見て取れる。先週にアクティビティがわずかに上昇したが、これがトレンドの反転なのか、それとも一瞬の出来事なのかはまだ不明である。

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サマリーと結論

 弱気相場は犠牲を伴うものであり、今回もまさにそうであった。通常は、市場が何らかの形で持続的な底打ちに近づくまで、弱気市場は良くなる前に悪化する。上記のセクションで観察されたことは、価格パフォーマンスの低下や長期的リターンの減少、短期的デリバティブ市場に織り込まれた恐怖、そしてオンチェーン活動の欠如という比較的因果論に近い分析結果である。

 この反応はデジタル資産市場全体において割合と普遍的であり、強気市場と比べて、ビットコインとイーサリアムのいずれにおいても利用率と需要が劇的に低下している。DeFiトークンの場合は、なおさらである。現在、内部資金の回転がBTCに向かっているというシグナルがあり、おそらく先週のLUNAとUSTの崩壊がその端緒となったのだろう。このような回転は弱気市場の歴史的な特徴であり、投資家はより安全だと思われる資産に移動するためである。

 とはいえ、過去12ヶ月間の米ドルに対する当業界の価格パフォーマンスは依然として芳しくなく、この弱気相場は長期的な収益プロファイルに少なからぬ影響を及ぼしている。

 弱気相場は終わりがあるものであるが、おそらく今すぐには終わらないだろう。ただ、「弱気相場はその後の強気相場のためにある」という言い回しもある。


製品アップデート

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