弱気相場の回復を追跡するための10つの指標

 サイクルの変化を特定することは至難の業であり、この目標を達成するための“銀の弾”は依然として無い。このレポートでは、ビットコインの弱気市場の後期をナビゲートするための有用なツールボックスとして機能する10つの指標一式を検討する。

弱気相場の回復を追跡するための10つの指標

 2022-23年の歴史的に深い痛みを伴う弱気市場を背景に、投資家やアナリストが、強固かつ確信的なサイクルにおける底値が確立されているかどうかの証拠を求めるのは自然なことだろう。ビットコイン・ブロックチェーンの透明性を活用し、市場心理を重ね合わせることで、持続可能な市場回復が進行しているときに歴史的なシグナルを発する典型的な投資家の行動をモデル化し始めることができる。
 このレポートでは、ビットコインの弱気市場の後期をナビゲートするための有用なツールボックスとして機能する10つの指標一式を検討する。これらの指標は、テクニカルとオンチェーンの両方における様々な概念を使用して選択・開発された。このセットは、いくつかの基本的な市場特性や人間の行動パターンにわたって合致点と一貫性を見出すことを目的としており、以下の広範な概念に基づいている:

 ・テクニカル:一般的なテクニカル分析ツールに基づく平均回帰分析。
 ・オンチェーン活動度:オンチェーン活動度およびネットワーク利用率におけるポジティブな上昇。
 ・供給ダイナミクス:長期保有者のコインの供給が飽和状態になること。
 ・収益/損失:オンチェーンにおける収益性の高い売却と売り手の枯渇の回復。

 各指標の定義に続き、執筆時点における現在の市場の状況を以下の用語で整理する:

 ・❌ 発生していない
 ・⏳ 進行中
 ・✅ 完全に確認済み

 注:これらの指標と本レポートは、特に長引く弱気相場後の市場の回復を見極めることを目的としている。これらのツールは他の分野にも応用できるかもしれないが、他の分野への応用は本分析レポートの範囲外である。

🪟本レポートで取り上げたすべての指標は、こちらのダッシュボードでご覧いただけます。

指標#1:底値の発見

 最初の紹介するツールは、200日単純移動平均線のテクニカル指標と実現価格のオンチェーン・コストベーシスの両方に基づく底値検出モデルである。

 最初の観察は、少なくとも6ヶ月間コインを保有する投資家の集団は、通常は弱気市場の後半に実現総額の60%から80%の間でHODLしているということである。そのため、0.7の倍率を選択し、実現価格への加重要素として適用する。この倍率は、投資家が「最も強固に握ることができる」最低評価額という見方をしている。

 スポット価格の終値がこの水準を下回った取引日は全体の1.6%未満である。

 2つ目の観測は、広く観測されている200日単純移動平均線とスポット価格間の乖離を追跡するメイヤーマルチプルに関連するものである。ビットコインの過去のパフォーマンスは、ビットコイン取引日の4.3%未満がメイヤーマルチプルが0.6未満で取引されており、これは価格が200日単純移動平均線に対して40%以上のディスカウントであることを反映していることを示している。

 📟指標:歴史的に、弱気市場の最も深い局面では、実現価格* 0.7🔵と200日単純移動平均* 0.6🟢の価格モデルの交点が発生する。これは、オンチェーン取引高に加重された実現価格が投資家の蓄積によって安定する一方で、加重されていない200日移動平均がマクロ価格の下落トレンドによってさらに下落し続けた結果である。

 🔎状態:完全に確認済み ✅
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指標#2:需要の高まり

 通常、持続的な市場の回復にはネットワーク・オンチェーン活動度の増加が伴う。ここでは、初めて登場するユニークな新規アドレス数(the number of unique New Addresses)について考察する。モメンタムにおける相対的な変化を識別するために月平均🔴と年平均🔵を比較し、オンチェーン活動の潮目がいつ変わるかを見極めることができる。

 📟指標:新規アドレス数の30日単純移動平均🔴が365日単純移動平均🔵を上回り、それを60日🟪以上維持すると、ネットワークの成長と活動において建設的な上昇が進行中であることを示している。

 🔎状態:進行中 ⏳。2022年11月上旬にポジティブなモメンタムにおける最初の爆発が発生した。しかし、これは今のところ1ヶ月しか持続していない。
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指標#3:競争力のある手数料市場

 ネットワーク需要の高まりのもう一つの兆候は、手数料を源泉とするマイナーの収益が健全に増加していることである。これは、ブロックが混雑し、手数料の圧力が高まった結果である。次の指標はマイナーの手数料収入の四半期平均🔴と年間移動平均🔵を比較するという、遅いものの説得力のあるモメンタム指標を使用している。
 これらのモメンタム指標は、ネットワーク利用や需要の変化を捉えることができるため、オンチェーン活動指標に適用すると効果的である。

 📟指標:マイナーの手数料収益の90日単純移動平均🔴が365日単純移動平均🔵を上回ると、ブロックスペースの混雑が建設的に上昇中であり、手数料圧力がかかっていることを示唆している。

 🔎状態:完全に確認済み✅  
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指標#4:活動度の広範な回復

 我々は以前の研究(WoC 28, 2022年)において、小口の取引の頻度が大口の取引よりも著しく大きいことを示した。そこから、小口(エビ🔵)と大口(クジラ🔴)の両方の関連的な取引を評価する枠組みを開発した。
 以下の指標は、値が大きいほど活動が活発であり、値が小さいほど対象集団の活動が少ないことを示すように構成されている。

 📟指標:弱気相場では、あらゆる規模のエンティティによるオンチェーン活動が顕著に減少する傾向がある。1.2以上の値は、最初の回復とオンチェーン需要の上昇の両方における閾値を定義する傾向がある。したがって、小口と大口のエンティティ両方が1.20を超えて回復したことは、全体的にネットワーク需要が回復していることを示すシグナルとなる。

 🔎状態:❌ 発生していない。両方ともオンチェーンでは比較的不活発な状態が続いているが、小口は徐々に活動を活発化させている。
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指標#5:資本の新しい波

 オンチェーン分析で最も強力なツールの1つは、購入時と売却時のコイン価値の差として計算される実現損益の評価である。実現損益率は、実現利益の総量が実現損失の総量を上回る🟢、あるいはその逆🔴を追跡する指標を提供する。

 ここではこの比率における長期的な30日単純移動平均を使用することで、日々のノイズを平滑化し、ネットワークの収益性における一層大規模かつマクロ的なシフトをより良く特定することができる。市場のボラティリティが高いため、誤検出も発生するが、より大きなスケールの指標トレンドを考慮することで説明できると思われる。

 📟指標:実現損益率の30日単純移動平均が1.0を超えて回復した場合、マクロトレンドが収益性の高いオンチェーン取引高にシフトしていることを示す。このことは、含み損を抱えた投資家が疲弊し、その利益を吸収する新たな需要が発生していることを示唆している。

 🔎状態:❌ 発生していない。
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指標#6:損失を出す

 同様のネットワーク収益性モデルとして、使用済みアウトプット単位で収益性をモニタリングするaSOPRがある。aSOPRは短期的な市場分析によく使われるツールであり、エビとクジラを同等に反映させるため市場心理のマクロ的な変化によく反応することがある。

 ここでは一層長期的な90日指数移動平均を適用することで、市場の広い範囲におけるマクロ的なトレンドの変化をより的確に把握できるようにした。

 📟指標: aSOPRの90日指数移動平均が1.0を超えて回復したことは、マクロトレンドが収益性の高いオンチェーン売却に向かって戻っていることを示す。これは、市場のオンチェーン活動の大部分が利益を生み出していることを示している

 🔎状態:❌ 発生していない。
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指標#7:強固な基盤

 弱気相場の強固な底値を確立するには、一般的にコイン保有者が入れ替わるため大量の供給が低価格で行われる必要がある。これは、売り手の退出(キャピチュレーション)と、それと対をなす新たな需要の流入の両方を反映している。その結果、平均的な市場コストベーシスがリセットされ、より有利な低い価格になる。

 マクロトレンドの反転の初期兆候として、利益のある総供給率(Percent of Total Supply in Profit)が急激に上昇する傾向がある。これは通常、比較的小さな価格上昇で発生する。さらに興味深いことに、市場全体が長期保有者のコホートをアウトパフォームするときであり、一般的にはサイクルにおける高値での購入者が大規模に一掃された後にのみ発生する。

📟指標:弱気市場の安値圏では供給が大量に再分配されるため、新規購入者 🔵が保有する供給の割合は、長期保有者 🔴と比較して著しく価格に反応しやすい傾向がある。従って、利益を持つ供給が長期保有者の供給の割合を上回った場合はここ数カ月で大規模な供給の再分配が行われたことを意味することが多い。

 🔎 状態:完全に確認済み ✅
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指標#8 - どん底まで落ちる

 最近の記事で、我々は価格変動に対する投資家の回復力を評価するためのフレームワークを開発し、それが利益を持つ供給の割合にどのような影響を与えるかを明らかにした。これにより、売り手が疲弊し、価格下落によって売り手が更なる売却を促す効果に対して減退させる可能性のあるポイントをモデル化することができるようになった。

 📟指標:価格と利益配分率の相関が0.75を下回る期間は、比較的価格に敏感でない保有者によって保有者層が飽和状態になっていることを示す。

 🔎状態:完全に確認済み ✅
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指標9:トレンドに対する信頼感

 マクロ的な弱気トレンドの反転を見極めるには、新規の投資家の信頼が高まっているときが有効である。これは、度々彼らの消費パターンに表れている。このことを測る実用的な方法は、新しく取得した(そしてHODLされた)コインが持つ未実現利益の大きさを、使用されたコインによって実現されたものと比較することである。

 以下の指標は、売却している🟢短期保有者のコストベーシスと、保有している🔵短期保有者のコストベーシスの差を取るものである。正の値は、HODLされたコインが、売却している投資家のコインよりも大きな利益を保持していることを示している。

 📟指標:売却エンティティが保有エンティティ🟪よりもコストベーシスが高い場合、新規投資家の大半は保有し続けることを望んでおり、持続的な上昇に対して自信を抱いていると考えられる。

 🔎 状態:❌ 発生していない。しかし、突破口に近づきつつある。
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指標10-ストレスの最大値を測定する

 市場投資家の特定の集団におけるコストベーシスは、保有する米ドル価値の合計を、その集団が保有するコインの量で割ったものある。このことを踏まえて、次のチャートは2つの供給クラスターのコストベーシスを示している:

 ・損失状態の供給におけるコストベーシス🔴
 ・利益状態の供給におけるコストベーシス🔵


 サイクルにおけるATHに達した後、市場は需要が悪化する局面に入り、ネット含み損を抱えた資産が増加する。このような市場全体の金融ストレスは、以前のレポートでも紹介した「供給ストレス率(Supply Stress Ratio)」によって測ることができる。

 📟指標:弱気相場の底値圏の間に、この比率は1.5を大きく上回り、過去に投資家を震撼させた経済的苦痛のレベルを反映している。このようなピークの後は、通常、1.0🟪以下に急落し、これは、金融ストレスが軽減され、より低いコストベーシスを持つ投資家が飽和状態になったためと解釈できる。

 🔎 状態:進行中 ⏳。現在、この比率は歴史的に投資家の大半を一掃するのに十分かつ、市場のストレスがピークに達した状態にある。
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サマリーと結論

 サイクルの変化を特定するのは容易なことではなく、この目標を達成するための“銀の弾”は依然として無い。しかし、ビットコイン・ブロックチェーンの透明性のおかげで、オンチェーンにおける循環的な行動パターンを観察し、それを指標として可視化することができる。

 この記事では、市場の基本的な性質や人間の行動パターンを幅広く網羅する10の指標について説明している。この一連のツールは、弱気相場から持続的に回復する時期を見出すために役立つ。多くのモデル間における合致点を探ることで、特定の指標やコンセプトへの依存度を下げ、より強固な市場センチメントの指標を確立することができる。

 これらの10指標の概略図は、本記事の公開時点のものである。ビットコイン市場はまだこれらの指標の大部分において発生していないものの、我々は新しいトレンドが確立した時にモニタリングするためのツールボックスを持っている。

🪟本レポートで取り上げたすべての指標は、こちらのダッシュボードでご覧いただける。

免責事項:このレポートは、いかなる投資アドバイスも提供するものではありません。すべてのデータは情報提供のみを目的として提供されています。ここで提供された情報に基づいて投資判断を行うことはできず、投資判断はご自身の責任で行ってください。