デリケートな均衡状態

 ビットコイン市場は、売り手の動きが鈍化するなか需要が限られているため、微妙な均衡状態となっている。今回は、ビットコインの売却の特徴を把握するため、取引所のフローを具体的に分析する。

デリケートな均衡状態

 今週のビットコイン価格は不安定な保ち合いのレンジ内で取引されており、安値37,333ドルでスタートしたのち、高値45,039ドルまで上昇、その後上昇分の大部分を戻し39,220ドルで終えた。世界的なマクロ経済環境と局地的な衝突が市場に不確実性をもたらし続ける中、ビットコインの強気派は価格の底値を固めようと試みている。この2ヶ月以上、強気派は控えめながらも、短期保有者の売却による持続的な売り圧力を吸収してきた。

 ここ数週間、価格は横ばいで推移しており、相対的な均衡が確立されている。しかしながら新たな需要が限られているため、売り手の枯渇や、逆に売り手の再活性化によって、この微妙なバランスが崩れる可能性がある。

 したがって、強気派がもたらす資本のサポートが弱気派を食い止めるのに十分であるかどうかが問われる。そこで今回は、取引所への流入を中心として現在のオンチェーン取引量を評価する。売り手の圧力と投資家による売却の規模を最も反映させることを目的としている。


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2つの取引所の物語

 取引所の活動に対する監視は、オンチェーン分析において強力な戦略だが、データの変異性(ここで取り上げている)を理解する必要がある。特に長い期間(数カ月間)における取引所のフローの総計を追跡することで、需要と供給のバランスについて有益な知見を得ることができる。

 まず、取引所残高の指標における解釈について、以下のようなハイレベルなニュアンスがあることに留意してほしい:

 ・ビットコインHODLer(すべてのウォレットサイズを含む)は、セルフカストディに大して非常に信心深い傾向があることから、コインを引き出す可能性が最も高い集団である。
 ・リテールレベルの新規参入者は、コインを引き出す可能性が非常に低く、カストディ・ソリューションのシンプルさと、取引所が提供する取引オプションを好んでいる。
 ・機関投資家も同様に、取引所のカストディ・ソリューションや同様のサービスを利用する傾向があり、こうした企業が提供する専門知識やリスク管理を好んでいる。また、これらのコインはOTCデスクを通じて取引され、特別なマルチ・シグネチャによる取り決めで保有される可能性が高い。
 ・デリバティブ市場の普及に伴い、ビットコインは担保として使用することもできるため、取引所の資金流入は、コイン証拠金の追加的な提供によるものであるとも考えられる。

 なお、上記の4つの特徴のうち3つは取引所への流入に偏っている。2020年3月の売り相場以来、取引所から総計575,876BTC(供給量の3.655%)の流出が印象的だったのはこのためでもある。また、2021年9月以降は相対的な均衡状態が成立していることにも注目したい。

ライブチャート

 ここ数週間においてマクロ的・地学的なイベントが非常に不安定であるなか、取引所のネットフローは、今週は若干流入に偏っているもののそれなりに安定している。今週は1日あたり約1千BTCの純流入が取引所に預けられ、BitfinexとFTXがその大部分を受け取っている。

 特にグローバルなマクロ経済環境を考慮すると、この売り手による供給の規模は非常に控えめであると推測される。

ライブチャート

 特に昨年においては、残高の推移において取引所は大体2つの陣営に分類できる:純流入がある取引所と、純流出に対して残高が安定している取引所である。

 具体的には、Binance、Bittrex、Bitfinex、FTXが保有するビットコイン準備金は明らかに増加した。これらの取引所を合わせると、2021年7月末から20万7千BTCの流入があり、24.3%の伸びとなっている。

ライブチャート

 もう一方の陣営には、我々がモニターしている残りの取引所が含まれており、7月下旬以降において合計25万3千BTCの流出が発生している。これらの取引所のうち、Huobi(紫色)は全体の減少幅が圧倒的に大きく、2020年3月に40万BTC以上あったものが、現在ではわずか1万2千3百BTCまで減少している。この残高の減少分の半分以上は、中国政府がビットコインのマイニングを禁止し、昨年5月に投資家の活動に対してさらなる制限を設けた後に発生したものである。

ライブチャート

 特にFTXとBinanceは、市場シェアの占有率(相対的なBTC保有残高で測定)が異常に伸びていることが、今回の調査で明らかになった。なおBinanceとFTXは、多様なスポット商品とデリバティブ商品を扱っているため、保有するBTCのうち証拠金担保として使用されている割合は相応に高いと思われる。

 FTXのBTC保有量は現在10万3千2百BTCと推定され、2020年3月のわずか3千BTCの保有量から異常な伸びを見せている。これは、2021年7月に0.8%だった残高占有率が、現在では4.0%に増加していることを意味する。

 FTXが保有するBTCを総取引所残高の指標から取り除くと(ピンク色の結果)、総取引所残高のこの指標は数年来の最低値を更新しており、FTXの現在の占有領域がいかに大きいかを示している。

ライブチャート

 しかしながら、Binanceが市場シェアの占有率において最も見事な成長率として冠を獲得しており、2018-20年に比較的安定していた8%のBTC残高占有率から、現在においては22.6%超まで上昇している。Binanceで保有されている総残高は、2020年3月以降31万5千BTC増加しており、わずか2年で120%も増加している。

ライブチャート

 BTC残高の増加と並行して、BinanceとFTXの両社は、2020年12月以降において先物市場での占有率が2倍以上になっている。Binanceの先物建玉のシェアは15%から30%に増加し、FTXは6.7%から14.8%超に上昇した(2.2倍の増加)。

ライブチャート

 先物取引量の増加はさらに目覚ましく、Binanceは今や全取引量の半分を占めている。同様にFTXも取引量における占有率を高めており、2020年12月以降2.5倍まで上昇し、現在では取引される先物取引量の9.2%を占めている。

ライブチャート

 この取引所による活動の調査から得られたハイレベルな結論:

 ・現在における市場の不確実性を考慮すると、純流入は比較的小規模であり、全体的な取引所残高は均衡しているように見える。
 ・過去1年間のBTC残高の変化に関して、取引所では2つのコホートがある。
 ・BinanceとFTXは、過去2年間で市場シェアの上昇が目覚ましく、両者とも先物市場における占有率を高めている。
 ・このことは、投資家がBTC現物の売却よりも、デリバティブを利用してリスクヘッジすることを好んでいることを示唆しており、第7週目のレポートと同様の観測であった。


取引所における流入量の特徴

 取引所残高の相対的な均衡状態を探ることができたので、次は取引所に送られるコインの投資家プロファイルを調べてみよう。まず、投資家のコストベース(実現価格)の3つの推定値を分析し、センチメントと売却の可能性に対する解釈として活用することにする。

 ・短期保有者の実現価格は現在$46,400で取引されており、したがって15%の総未実現損失を保有していることになる。この指標は、過去155日以内に移動したすべてのコインを反映したものである。
 ・HODLerのインプライド価格は現在ブレイクイーブン($39,200)にあり、「フェアバリュー」の推定値を反映している。これは、標準的な実現価格に蓄積とHODLing行動の程度を加重して計算されている。
 ・実現価格は現在$24,100で、すべてのコインが最後にオンチェーンで移動されたときに評価された平均価格である。これは歴史的に非常に健全な相場サイクルのサポートレベルであり、市場全体がまだ63%の未実現利益を保持していることを示唆している(コストベースの低い長期投資家が大きく加重されている)。

ライブチャート

 このことから、明らかなテーゼとして次のことが挙げられる:

 1、短期保有者はポジションが含み損状態にあるため、売却する可能性が最も高い。
 2、逆に、長期保有者は利益が出ている可能性が高いので、売却する可能性は低くなる。

 次のグラフは、取引所に送られたコインについて、短期保有者がどの程度の損益を実現したかを示したものである。2ヶ月以上にわたって、1日あたり時価総額の約0.5%に相当する自明でない損失が続いていることがわかる。この規模の損失は、2018年の弱気相場、2020年3月、2021年5月に見られた極端なキャピチュレーションレベルには遠く及ばない。

 これは、短期保有者が売り圧力を生み出しているという我々の最初の観測をほぼ裏付けるものであるが、その規模は過去の弱気サイクルで見られたものよりもはるかに小さい。

Glassnode Engine Roomからの未公開の指標

 同様に、下図は長期保有者が取引所に送金することで実現する損益を示したものである。2021年1月以降は売却の度合いが減少していることがわかるが、これは長期保有者が売り手の活動のごく一部のみを担っているという第2の観測を裏付ける。なお、過去のサイクルの底値で見られたような、長期保有者による大きなキャピチュレーションはまだ見られていない。

 短期保有者と長期保有者の損失規模が歴史的に小さいということは、売り手が全面的に崩れになる可能性が高まっている。しかしながら、短期保有者と長期保有者の両方が最終的かつ完全にキャピチュレーションするリスクは引き続き注視すべきであり、過去に多くの前例がある。

Glassnode Engine Roomからの未公開の指標

 また、オンチェーン取引高に占める利益の割合も歴史的な低水準に近く、今週は47.5%に達している。この観測を裏返してみると、全取引高の半分以上(52.5%)が現在損失で費やされていることが推論される。過去の弱気サイクルの最終段階(赤色で示した部分)では、全取引高の55%以上が損失であった(キャピチュレーションイベント)。

ライブチャート

 最後に、実現総額の30日間における変化に注目する。この指標は、ネットワーク全体の利益/損失を示し、長期平均値からの標準偏差(Z-Score)として表示される。

 この弱気相場における投資家の損失は、統計的に有意であり、平均値から1標準偏差下方に広がっていることがわかる。この大きさの実現損は、過去5年間の弱気相場(ローカルおよびグローバル)のすべての重要な底値と一致している。

ライブチャート

サマリーと結論

 現在のドローダウンは、過去の弱気相場(-85%)よりも浅い(-50%)にもかかわらず、多くのオンチェーン指標や統計において歴史的に重要である。これは、過去の後期における弱気相場の傾向と類似した特徴を示している。しかしオンチェーンでの「パニック売り」の程度は統計的には重要だが、市場規模との比較では著しく低い。

 売却している投資家は、損失が発生しているコインの売却を好んでおり、この活動は短期保有者によって支配されている。一方、長期保有者の売り手は2021年1月以降は減少し続けており、これはマクロ的要素により不確実性が高いなか、強い信念が高まっていることを示唆している。

 デリバティブ市場の導入に伴い、特にFTXとBinanceは市場シェアを大きく伸ばしている。このことは、市場がリスクヘッジのためにBTCの現物を売却してエクスポージャーを減らすのではなく、先物を活用していることを示す新たなデータポイントとなっている。


製品アップデート


 すべての製品のアップデート、改善、指標とデータの手動更新は、参考として変更履歴に記録されています。

 ・新しい指標「トランザクションアウトプット種類別供給」をリリースした。
 ・wBTCの内部送金に伴いクラスターラベルを調整した。
 ・NVT エンティティ調整後のバリアントを修正した。
 ・Uncharted Newsletter Edition #10を再発行した。